その人物像とは?

 破天荒な夢の実現にまい進するマスクとはどのような人物なのか。

 モデルのような端正な顔立ちで、はにかんだような表情で穏やかに話す。だが、そんなソフトな一面だけを見るとマスクの本質を見誤る。常識に抗い、巨大産業の構造を覆すのは容易ではない。マスクは夢を実現させるため、数々の苦境を、不屈の精神で乗り越えてきた。

宇宙船「ドラゴン」

 今でこそ一定の成功を手にしたかに見えるマスクだが、2008年頃は窮地に立たされていた。テスラは、初代の量産EV「ロードスター」の開発に時間がかかり、倒産寸前だった。スペースXもロケットの打ち上げに3回連続で失敗し、資金は底をつきかけていた。そんな明日が見えないような状況でも、マスクは決してあきらめなかった。

絶望的な状況は頑張ろうという強烈なやる気につながる。危機の中で私は社員にこう話しました。『私はこれまでもこれからも決してギブアップしない。息をしている限り、生きている限り、事業を続ける』と。そして、私個人の資産で売れるものは何でも売り払い、何も残らない状態でした

 困難に屈しない精神は1990年代後半に米スタンフォード大学を中退して始めたインターネット決済のベンチャー「ペイパル」の前身企業を起業する経験の中で培われた。資金を節約するために会社のオフィスで寝泊まりし、シャワーを浴びるのは近所の青少年向けの施設。

 1台しかないパソコンを、昼間はWEBサーバーにして、夜はソフト開発のためのプログラミングに活用した。がむしゃらに働いて同社を成功させ、宇宙とEVの分野に乗り出すための資金を手にした。

 こうしたハードワークを、マスクはこよなく愛する。「起業家は週100時間、地獄のように働くべきだ」と語り、週末もEVやロケットの開発現場や工場に頻繁に足を運ぶ。常人では考えられない激務をいとわないからこそ、世界的に脚光を浴びる2つのベンチャーを同時に経営できるのだろう。