世界に役立つことこそが大事

 EVと宇宙だけではない。マスクは太陽電池発電ベンチャーの米ソーラーシティの会長も務める。同社は太陽電池パネルを無料で住宅に設置。リース形式で、利用者は節約できる電気料金などを原資に利用料を支払う仕組みで、急成長している。

超高速列車「ハイパーループ」
宇宙ロケット「ファルコン9」

 さらに2013年8月には、時速1200kmを超える超高速列車「ハイパーループ」の構想も発表した。ジェット旅客機を上回る超高速でロサンゼルスとサンフランシスコを30分で移動することが可能になるという。

 この構想で見せたのがマスクならではといえる哲学だ。ハイパーループは、EVと宇宙関連で多忙なマスクが今手がける余裕はない。「アイデアを無償で公開するので、外部の誰かに試作機を実現してもらえるとありがたい」と記者会見で発言したのだ。

私たちは世界に役立つことをしているということが一番大事、それこそが私のモットーです

 マスクはこう言い切る。社会に役立ちたいという思いはEVでも同じだ。2014年6月にはテスラのEV関連の約200もの特許を公開すると発表した。テスラの特許技術を利用する企業に特許侵害訴訟を起こさないとの方針だ。量産ノウハウに優れた自動車大手がEVに本気になれば、テスラの競争力はそがれるが、環境負荷が小さいEVが世界で普及すればそれでいいと考える。

最終的に自動車大手がテスラより優れたEVを生産できるようになれば、テスラは存在すべきではなくなる。テスラは、優れたEVを作っている限り、存在意義がある

 火星移住計画に力を入れるのも人類の危機を救う手段を実現するためだという。気候温暖化や天変地異などで人類が地球に住めなくリスクは小さくないと考えている。

 「私は悲観主義者ではなく、終末論が好きなわけでもありません。しかし、歴史上の多くの文明は進歩と後退を繰り返しています。こうしたことが起きる前に、火星に基地を作ることは重要です

 もちろんマスクの夢はあまりに壮大で、実現には困難がつきまとう。世界を良くできるなら、会社が滅びても構わない─。そんな不屈の異端児の挑戦を、世界は固唾をのんで見守っている。=敬称略

(写真:的野弘路)
この記事は『リアル開発会議 2014 Autumn/Winter』のコラム:「走り続ける人」を基に再構成しました。