承前

 2003年10月に始まったSamsung Electronics社(以下、サムスン電子)でのモジュラーデザイン(MD)のコンサルティングは、Visual Display(VD)事業部の他にPrinting(PR)事業部も対象だった。PR事業部は、「先行する日本のプリンターメーカーに追い付くために、日本の先生から設計革新の方法を学びたい」という設計現場の発意で取り組んでいた。だから、「日本、何するものぞ」という雰囲気のVD事業部と異なり謙虚だったので、順調にコンサルティングが進んだ(VD事業部でのコンサルティングについては第16回参照)。

 プリンターは機械部分が多いので、自動車の経験や知識を生かして新しいモジュール化の方法を考案しながら進められた。初めに、印刷方式(インクジェット、レーザーなど)、印刷色(カラー、モノクロ)、給排紙方式(フロントイン・フロントアウト、バックイン・フロントアウトなど)といった方式を組み合わせた製品システム構成を作成した。これらに、製品サイズ(A4用紙対応、A3用紙対応など)を組み合わせた製品ラインアップ体系を確立し、最後にオプション群(スキャナー、電話、ファクスなど)を組み合わせた製品ミックスを作成した。

 続いて、製品ミックスを最小公倍数的にカバーする標準機能ブロック図、ペーパーパス(paper path)ごとの標準製品レイアウト図、および標準製品レイアウト図に対応する標準配管・配線図を作成し(これら3つを総称して標準製品システム図という)、製品システム構成と標準システム図との対応表を作成して、すべての製品システムをカバーする最少の製品システム図種類を標準化した。

 さらに、製品ミックスをカバーするすべての部品を抽出して機能的に下方展開した設計部品構成を作成し、すべての製品ミックスをカバーする設計部品の仕様をリストアップしてそれらの仕様にモジュール数を適用し、設計部品をモジュール化した。

 併せて、印刷速度などの性能をモジュール化し、モジュール化した性能に対応する製品システム図とモジュール化部品をそれぞれ標準製品システム図とモジュール化部品リストの中から的確に選択して設計する手順書を作成した。製品レベルの設計手順書(基本設計手順書)を作成する際は、設計だけではなく製品企画、生産技術、購買、アフターサービスまで全社の部門が絡んでくるので難航した。基本設計は、関係部門が打ち合わせをしながら製品の基本構造を徐々に固めていくのが常なので定まった手順がなく、難航するのは当然だった。しかし、彼らは「だからこそ基本設計手順書を作成する価値がある」と言って粘り強く取り組み、設計手順書を完成させた。

 エレキ系については、8カ月という短いコンサルティング期間では組み込みソフトウエアのモジュール化まで手を広げられなかったので、電気回路系をモジュール化した*1。初めに、電気回路ブロック図を作成し、回路基板枚数を標準化することで製品システム構成ごとの回路プラットフォーム(シャシー)を標準化した。次に、このプラットフォームに搭載する電気・電子部品をすべて列挙し、製品群全体を見渡して構成部品種類数が最少になるようにモジュール化した。こうして、それまでは個別製品開発ごとに発生していたモーターやギアトレーンといったメカ部品、およびスイッチング電源などの電気回路部品を激減し、MD式ベンチマーキングで負けていた日本のプリンターメーカーに伍するMD指数を実現した。

*1 当時はソフトウエアをモジュール化した実績がなかったが、マツダ時代にECUソフトウエアをモジュール化するアプローチ法を研究していたので、できれば実際にやってみたかった。ソフトウエアをモジュール化する実績ができたのは、2013年になってからだった。

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