山本 その割には、中期経営計画によると来年の売り上げが足りないから新しい事業をやらなければならないと言われる。では、このくらいの投資を新事業に割り振りましょうという話になって。
逆算して、この規模の新規事業をやるためには、これくらいの新しい技術に投資しなければならない。投資すべきタマはあるのか、ないのか。ないんだったら、ほかから持ってこようとベンチャーに投資する。それで、失敗して誰の責任だと。せっかく稼いだお金を、何でお前はこれだけ使ったんだという話になる。どれも、自分なりの勝算に基づいた行動ではありませんが、やらなければならないと追い詰められた結果、できもしない計画を立てたり、製品企画をつくったりしてしまう。これを繰り返していると、やはりどんどん鈍化していくし、世の中のことを知るアンテナも下がっていく。
今井 技術者の子供っぽさというのは、個人の話だけではなく、会社もそうなっているという気もしますね。
山本 要は、昨日と同じエレクトロニクス産業が明日もあると思っているんです。大量生産でしっかりとしたものをつくって、ブランドを立てて、テレビでコマーシャルして量販店やネットを通じて売っていく。この在り方と、これからのエレクトロニクス業界のやり方は違うのではないかという疑問を感じていない。ひょっとしたら、こうなるかもしれないから、そのために準備をしておくんだという考え方があまりないですよね。
1973年東京生まれ。1996年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。国際電気(現・日立国際電気)入社後、調査会社、外資系証券会社調査委託などを経て、2000年、IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。ベンチャービジネスの設立や技術系企業の財務・資金調達など技術動向と金融市場、各種統計処理や分析業務に精通。また、対日投資向けコンサルティング、投資ファンドを設立。著書に『ネットビジネスの終わり (Voice select)
今井 会社としては、どう変わっていけばいいのでしょう?
山本 今までの延長線上にあること、例えば「年末商戦があって、その前の8月にマーケティング会議をやって…」というような年間スケジュールが、来年も同じように動くとは限らないことを認識すべきだと思います。
その前に、「今まで僕たちが培ってきたものは何だったんだっけ」ということを、ちゃんと分解して機能別に分けて。「この技術はまだ使える」「この技術はそろそろ死んできた」とライフサイクルを組んで、「自分たちは、新しいライフサイクルにどれくらい投資しているのか」をきちんと考えなければならないはずなんです。
そういうことをやっていないですね。エレクトロニクス業界は。「なぜ、やらないんですか?」と聞くと、「やるやつがいないんだ」と言われてしまう。「いや、あんたがやるんだよ」というツッコミを入れたくなります。
「今、メモでいいから、項目を四つでいいから、次の2年間のうちにあなたの事業部でやらなければならない技術的な取り組みを書き出せますか」と聞いたら、書けない人が多いですね。漠然と、海外進出だとか、ローコストオペレーションとか言い出す。棚卸しができていないんじゃないかと感じるんです。
川口 とりあえず「エコロジー」とか、とりあえず「シルバー」とか、無難に「ビッグデータ」とか言っておけばいいや、長いものに巻かれましょという感じだよね。
山本 言葉だけです。