ターボ分子ポンプでは、タービン回転半径を変化させることで流量のバリエーションを確保するということだったので、流量違いの機種間で部品を共用することは難しいと思い、「もしMDがうまくいかなかったら勘弁してほしい」と先に断ってからコンサルティングを開始した。設計手順書を作成する過程で、以下の図のように、現状の機種の流量(特性A)と流速(特性B)で機種マップを描いたところ、小さな能力の領域には複数の機種が重複して存在し、大きな能力の領域は顧客の要求に対して間隔が大き過ぎる機種展開になっていた。
そこで、流量にJIS Z 8601「標準数」のある数列を適用したところ、上図の左下に示すように、機種間で重複も乖離(かいり)もなく機種数を12から9に削減できる機種展開になることが分かった。ただし、これをそのまま実現しようとすると、すべての機種が新設計になってしまうので、上図の右下に示すように、既存機種をなるべく流用し、既存機種では埋められない領域のために3機種だけを新設計することにした。これによって、3機種分の専用部品を全部削減できるとともに、隣り合う機種間でシャフト、ベアリング、固定翼といった部品の共用化が進んだ。モジュール化が難しいと考えていた製品でもモジュール化の効果が出たのである。私はこの経験で、「あらゆる製品でモジュール化の効果が出る」との自信を深めた。
製紙機械もターボ分子ポンプと同様に、設計手順書を作成する過程で製品ラインアップがまちまちであることが分かった。そこで、リール抄速と秤量に前出の標準数の数列を適用して5機種から2機種に機種数を削減するとともに、今後の市場拡大が予想される領域に向けた新機能を備える1機種を追加して、品ぞろえ効率が最大になるラインアップを展開した。
以上のようにターボ分子ポンプと製紙機械は1年で成果を出したが、フォークリフトは「走る、曲がる、止まる、持ち上げる/下ろす」という複合機能製品であり、立ち型/座り型、4輪/3輪、前輪駆動/後輪駆動、前輪操舵/後輪操舵、エンジン駆動/バッテリー駆動と、方式違いが非常に多く、方式違いを超えて部品をモジュール化するアプローチを確立するのに手こずった。そこで、「製品システム構成整理→標準機能ブロック図作成→標準レイアウト決定→構成部品のモジュール化」という新たなMD手法を開発し、引き続き2年目の活動を提案した。しかし、販売が増えてきて設計部門が忙しくなったという理由で、残念ながら打ち切りになった。
A社でのコンサルティングを終えるに当たり、A社でMDが継続されるようにとの思いを込めて、『モジュラーデザインマニュアル』を作成して置いてきた。A社はその後、私がコンサルティングしなかったマシニングセンターにおけるモジュール化設計の事例を公表したり、「MDで数百億円の原価低減をした」と公表したりしたので、A社には私のMDが確実に根付いていることを感じている。