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VWの戦略に影響?

VWからの委託研究の報告書
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 2005年初め、拙著『トヨタ経営システムの研究』を読んだフォルクスワーゲン グループ ジャパンから広島大学の私に「日本自動車産業の製品開発能力の調査研究」という委託研究のオファーがあった。そこで、2005年2月から同年6月まで調査研究し、同年7月に広島大学で研究成果報告会を開催した。そこへ、ドイツVolkswagen社(以下、VW)本体からR&D担当専務取締役が出席することになった。当日の報告会の後、このR&D担当専務と以下のような会話を交わした。

日野 VWは、スウェーデンの商用車メーカーであるScania社(以下、スカニア)に20%ほど(当時)資本参加しているが、スカニアの高収益の要因について分かっていることがあったら教えてほしい。

R&D担当専務 スカニアがなぜあれほど高収益なのか、我々にも理解しがたい。あれは、マジックだ。

日野 スカニアのMDがその理由だと聞いている。スカニアの大株主なのだからきちんと調べてはどうか。

 VWは、2007年にスカニアの株を買い増して37%の議決権を獲得してスカニアを子会社化し、同時に「モジュラーツールキット戦略」を打ち出した(現在はさらに株を買い増して100%の議決権を獲得している)。VWはそれまでプラットフォームを複数車種で使い回す「プラットフォーム共通化戦略」を採用していたが、「プラットフォーム共通化は、部品の共通化ができそうでできないジグソーパズル」「モジュール化はレゴブロック」と語って、モジュール化戦略に切り替えた。プラットフォーム共通化戦略は自動車のホイールベース、トレッド、フロアーからヒップポイントまでの高さがほぼ同じ車種間でしか採用できないが、モジュール化はそれらが異なる多様な車種間で部品を共用化できることが戦略転換の理由だった。いきさつからして、2005年の前述の会話がVWの戦略転換に影響した可能性があると思っている。