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 上海で生活を始めて今年で15年目になるが、いつまでたっても慣れないことがある。交差点を青信号で渡っているヒトに、右折のクルマが突っ込んでくることである。ちなみに中国は「ヒトは左、クルマは右」である。

 中国では前方が赤信号でも原則、クルマは右折できる。それはルールだからいいとして、右折した前方の横断歩道にヒトが渡っていれば、クルマは一時停止してヒトが渡りきるのを待つ、というのが日本人の感覚だろう。ところが中国では完全にクルマが優先。前方の横断歩道にいるヒトを蹴散らすようにクルマが突っ込んでくる。同じようなクルマが次々に来るため、道を渡りきらないうちに信号が赤に変わってしまうなどというのは日常茶飯だ。

 ただ、周囲を観察してみると、その場でクルマに向かって悪態をついているのは私ぐらいのもの。中国人はヒトの方も慣れたもので、クルマを先に行かせてから渡る。まあ、歩行者もドライバーも同じ思考・習慣を持つ中国人のこと、歩行者も立場が変わってクルマのハンドルを握る方になれば、自分も横断歩道を渡るヒトに突っ込んでいくのだろうから、涼しい顔をしていても当たり前といえば当たり前である。

 先に、いつまでたっても慣れない、と言った私にしても、中国のこうした交通マナーは既に熟知していて、交差点におけるクルマの行動を予見して動くわけなので、その意味では「十分に慣れている」のである。いつまでも慣れないのは、「ヒトよりもクルマが優先」という考え方、ということになるだろうか。

 ところで、昨今話題の自動運転が導入されたら、ここまで書いてきた中国の交差点における交通マナーは変わるのだろうか。クルマのセンサーは、前方のヒトを感知し、スピードを落としたり止まったりすることを選択するのだろう。ただ一方で、人工知能が経験を積み上げて学習しその後の行動に反映するということもするのだろうから、「この国では青信号で横断歩道を渡っているヒトをクルマが蹴散らしてもいい」という経験が積み上がって、しばらくするとヒトと同じような運転をするようになるのだろうか。それにそもそもプログラムの段階で「ヒトよりもクルマが優先」と打ち込まれるのか? いずれにせよ、自動運転が実用化されると、交通マナーや道路事情からお国柄が消え、世界中どこでも画一化された風景が広がることになるのだろうか。それはそれで味気ない気もする。