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インダストリー4.0とモジュラーデザイン

 昨年ごろからドイツ発の「Industry 4.0」(以下、インダストリー4.0)がにわかに脚光を浴びている。インダストリー4.0は「第4次産業革命」とも呼ばれており、グローバル時代の多様な顧客要求に応じて大量生産品並みのコストでカスタマイズ製品を提供する国家的「マスカスタマイゼーション」システムだ。そのコア技術の一つにIoT(Internet of things)が位置付けられているので、インダストリー4.0は「インターネット技術を通じて物の生産と流通の時間を劇的に改善し、個別の顧客の要求に応える製品を大量生産品並みのコストで迅速に提供する国家的なサプライチェーンマネジメント(SCM)システム」といえる。今年の4月にドイツ・ハノーバーで開催された「Hannover Messe 2015」はインダストリー4.0への国際的な関心の高さのために盛況だったようだ。

 インダストリー4.0で私が疑問に思うのは、インターネット技術の高度化によって製品・部品の組み立てと流通の時間短縮は確かに可能だが、部品の「加工」の時間短縮はできない点をどう解決しようとしているのか分からないことだ。鉄やアルミニウムといった金属系部品の加工は、削り出しか鍛造か型具などによる加工が必要で、そのために長時間を費やしており、インターネット技術ではどうにもならない。金属系部品に対応した3Dプリンターも存在するが、その適用範囲には限りがある。個別の顧客の要求に応じて一品料理的に金属系部品を加工することは、現時点では非常に難しい。従って、インダストリー4.0の成否は、究極的には金属系部品の加工時間を短縮できるかどうかで決まる。

 加工時間短縮のためには加工設備の革新も考えられるが、それは簡単にはできないことだ。そこで、加工時間の短縮に向けて、複数の製品で共通に使える互換性の高い部品または部品仕様を標準化すること、すなわちモジュール化が必要である。

 私はマスカスタマイゼーションを「互換性が高い少数のモジュール部品を設計して、部品レベルで大量生産品並みのコストを実現し、これらのモジュール部品を組み合わせて個別の顧客の要求に応えた製品をカスタマイズ設計する」と定義しており、インダストリー4.0は国家的なモジュラーデザインであると捉えている。

 拙著『実践 モジュラーデザイン』の中で、モジュール化の将来像は「調達のモジュール化」だと書いた。すなわち、製品を構成する部品はメーカーの系列を超えて世界最高の技術を持つサプライヤーから調達する時代が来ると展望したが、インダストリー4.0の登場はまさしく調達のモジュール化時代に差し掛かったことを意味する。

モジュール化の分類(出典:『実践 モジュラーデザイン』)
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