2014年4月に日本の自動車メーカーが共同で最高の効率のエンジンを研究する「自動車用内燃機関技術研究組合」(AICE:Research Association of Automobile Internal Combustion Engines)が設立された。これも調達のモジュール化の“前兆”だといえる。現在はエンジン技術の基礎研究が中心だが、いずれは最高技術が織り込まれたエンジンをあらゆる用途の自動車に適用できるようにモジュラー展開し、製造まで一手に引き受けて自動車メーカー各社に提供すれば、すべての自動車メーカーは日本最高効率のエンジンを共用しつつ各社が個性ある多彩なコンセプトの自動車を設計するようになり、日本の自動車業界におけるインダストリー4.0に近い状態となる。
だが、究極のインダストリー4.0を実現するためには、「エンジン、トランスミッション、ステアリング、ブレーキ、サスペンションなど基本機能ユニットの自由な組み合わせが可能になる状態まで発展させる」ことが必要である。それには、部品を組み合わせて製品にする設計手法の革新が必要だ。それがモジュラーデザインである。つまり、インダストリー4.0とは「国家的なモジュラーデザイン」だといえる。
私は拙著『実践 モジュラーデザイン』において、以下のような「モジュラーデザインによるバリューチェーン改革」の図を示した。
この図で述べたかったのは、「サプライチェーンを機能させてマージンを最大に稼ぐためにはエンジニアリングチェーンの改革が必要」ということである。国家的なサプライチェーンの確立には国家的なエンジニアリングチェーンの改革が欠かせない。業界を超えて全製品の製品システム構成、製品ラインアップ体系、設計部品構成を標準化し、製品仕様をモジュール化しなければならない。それらは、同じ機能の製品であれば企業の枠を超えて普遍的な体系になるので、企業の利害とは関係なく標準化できることであり、企業間の争いに発展しない。日本の企業は、狭い国内の競争関係に拘泥せず、グローバル競争の勝者を目指してエンジニアリングチェーンの標準化に向けて大同団結してほしい。
以上が、私の描くインダストリー4.0の姿であり、20年後ぐらいには世界のどこかで実現しているだろう。さらに、30年後ぐらいには国家を超えた地球規模のモジュラーデザインが実現しているはずだ。なぜなら、モジュラーデザインは顧客の多様な要求に応えつつ地球環境保全を実現する手法なので、地球環境の危機を迎える21世紀後半にはどの国もいや応なしに採用しなければならなくなるはずだからである。孫子の代まで人類の豊かな財産を伝承し、負の遺産を押し付けないためにもモジュラーデザインがより広く普及することを願っている。