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今、FMEAを学ぶ日本メーカーの技術者が増えていると語る國井氏
今、FMEAを学ぶ日本メーカーの技術者が増えていると語る國井氏
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──役になりきって、見えないところを見えるようにしていくんですね。

國井氏:そう。決して100点満点は取れないけれど、合格点以上は取れる。実は、技術者の想像力はとても豊かだし、想像すること自体が好きなので、この方法で、これまでに経験したことのないトラブルをよく予見できるんですよ。本来、技術者は発想力に富んでいるので、道具さえあれば、それを引き出せるというわけ。しかも、とても楽しい。

──誰かがアクセルペダルの視点で考えて発言したら、フロアマットやゴムシートから思いもかけないことを言われる。それに対して、ああだこうだと返す。みんなで演劇の脚本を作っているようなものですから、それは楽しいでしょうね。ただ、これは正しい、これは間違っているといったことはあるのでしょうか。

國井氏:ありません。自由発想です。難しいのは、どういうシーンを設定するかなんです。雨の日とか、ここにぶつかったとか。でも、毎日のエンジニアリング業務とは違う世界を味わうので、みんなノリノリで進めていきます。

 このシナリオラインティングを、ある自動車メーカーの電気自動車(EV)チームが徹底して実践しました。歴史が浅いため、EVには過去のトラブルの情報がありません。衝突時の現象を想像しようにも、フロントフードの中にエンジンを載せていないため、ガソリン車やディーゼル車の情報は使えない。そのため、彼らはシナリオライティングを採用したのです。

 経験したことのないトラブルを「想像しなさい」と上司は言うけれど、しかるべき道具がないとできません。さらに言えば、楽しくないとできないんですよ。しかめっ面して「べき論」を語られても、嫌になっちゃって形骸化しちゃう。で、若い技術者は職場では黙っていて、飲み会で愚痴をこぼすんだよね。

──なるほど、本音を漏らせないわけですね。

國井氏:ここで、ちょっと話を前に戻します。先ほど、FMEAを使っている日本企業でも50点止まりで、それは経験していないトラブルを想像できないからだと言いました。しかし、実は原因はもう1つあるんです。FMEAを使いこなすための基礎技術を備えていないことです。分かりやすくたとえるなら、世界最高峰のバイオリン「ストラディバリウス」です。

 ストラディバリウスは数億円もするバイオリンですよね。このバイオリンを弾くには、演奏技術をマスターする必要があります。それがあって初めて数億円の音を奏でることができる。ところが、「先生、2億円の音を出させてください」と、いきなり言ってくる日本企業が多いんです。冗談じゃない、技がないでしょうと。FMEAを使いこなすには、技が必要になるのです。

 1つは、トラブルの潜在箇所に重点的にFMEAを実施すること。人や時間が足りないというのなら、トラブルの潜在箇所だけでもFMEAを実施すればいい。もう1つは、トラブル完全対策の技。2度とトラブルを起こさない技があるんです。

──技を覚えて、FMEAという道具を使う。ここで、シナリオラインティングを使って見えないトラブルも想像する。これで終了ですか。

國井氏:いいえ。FMEAを使うだけでは、自分たちに都合のいいものをつくってしまう。だから、FMEAの審査が必要です。技を学んで、道具を使ってもらう。しかし、さらに審査が必要なんです。バイオリンで言えば、上手か下手か、練習が足りないか否かの審査。

──この審査に関しては、何をすればいいんですか。

國井氏:例えば、ある部品の直径を6mmから8mmに変える対策を打つ場合、直径8mmにすれば問題がないことを証明するのです。具体的には、CAEや実験によって審査します。ところが現状では、直径が6mmで強度が足りなかったから、直径を8mmにして、それで終わりという日本企業が多いのです。

 きちんと技を抑えてFMEAを実践し、見えないトラブルはシナリオラインティングで想像する。そして、最後に審査を行って想像したものに妥当性があるか否かを確かめるのです。