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墓に刻まれたエントロピーの公式

 ドゥイーノを訪れた翌2012年、ウィーンの中央墓地(Zentralfriedhof)にあるボルツマンの墓を参った。中心市街と空港の間に位置する広大な中央墓地には、モーツァルトやベートーヴェン、シューベルト、ブラームス、ヨハン・シュトラウスなど有名作曲家の墓があり、人気観光地の一つになっている。この墓地は歩いていても明るく気持ちがいい。

オーストリア・ウィーンの中央墓地にある音楽家たちの墓。左がベートーヴェン、中央がモーツァルト、右がシューベルトのお墓。写真には写ってないものの、さらに右にブラームスのお墓。その他にワーグナーやヨハン・シュトラウスのお墓もある。
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 中央墓地では誰の墓がどこにあるかが、ちゃんと地図掲示板で示されている。このあたり、オーストリアはホスピタリティーにあふれ、その面では日本以上といえる。ボルツマンの墓は墓地の中央にある教会(Kirche)の傍らにあった。

 ボルツマンは複雑な経緯をたどって現在の位置に埋葬された。デヴィッド・リンドリー著『ボルツマンの原子』(青土社)によると、20世紀初めの混乱の時代、ボルツマンの墓は人々に忘れ去られ、墓地の地代が20年分しか支払われなかったため、ボルツマンの棺の上に別人が埋葬された。

 1929年、科学者たちの尽力によってボルツマンの棺が墓所から移されることになった。ボルツマンの上に埋葬された故人の眠りを邪魔しないよう、斜めに穴を掘って棺を引き出し、現在の中央墓地に埋葬し直した。

 ボルツマンの墓はウィーン市の管理に委ねられ、墓前の植栽には鮮やかな花が咲いていた。きれいに整えられて、大事にされていることが伝わった。

 白大理石の立派な胸像の上には、彼が導き出したエントロピーの公式「Sk.logW」が金文字で刻まれていた。kにはピリオド(.)が付いている。kはいろいろな係数に使われるから、差異化を図るためボルツマンのBを付して「kB」と記すときもある。当時はピリオドを付けることでボルツマン定数を表現したのではないか。あくまで当て推量にすぎないけれど。

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ボルツマンの墓。オーストリア・ウィーンの中央墓地にある。墓石には、ボルツマンが見つけたエントロピーの式S=klogWが刻まれている。ただし、kが、k.になっている。
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