川口 結局、その種の議論は水素社会の推進派から新しいデータが出てきて、個別の最適化されたデータがたくさん積み上がっていく。疑問を持つ人が推進派から「シミュレーションをやったんですか」と問われたら、その場で反論できるだけの材料はないわけです。でも、新しいデータに対して再び違うと言い始める人もやはりいて、「結局、どれを信じたらいいの?」ということになっちゃう。
1984年、慶應義塾大工学部卒、イリノイ大学修士課程修了(化学専攻)。 技術とイノベーションの育成に関するエキスパート。付加価値となる商品サービス機能の独自性の根源を、文化的背景と体系的に紐付けたユニークな方法論を展開する。その代表的著作『オタクで女の子な国のモノづくり
山本 自動運転についてもそうですけれど、結局は「自動車1000台当たりに、どれくらいの処理能力やエネルギー効率の高いシステムが必要になるか」というところからリソースマネジメントするしかないんですよ。
「自動運転、自動運転」という掛け声自体は素晴らしいのだけれども、実際に具現化するには相当なマシンリソースが必要で、ネットへの負荷も大きい。停電でもあって、自動運転を実現しているネットが落ちたら大渋滞すんの。それを全く無視して、「IoT(Internet of Things、モノのインターネット)は素晴らしい」というのは乱暴です。「今のインターネット網にIoT端末としての自動車を何台ぶら下げられるのか」を、本当はどこかで真剣に考えなければならない。
今号の誌面にも、5G(第5世代移動通信)やIoTの動向解説がありましたね(「いざ5Gへ、クルマもIoTも貪欲に吸収」)。確かに回線については分かりましたと。ただ、「それにぶら下がるマシンパワーはどうするんですか」というボトルネックがようやく見えてきた。例えば、「日本国内で60億件のIoT端末がぶら下がります」となった瞬間に、どれだけのデータセンターが必要で、クラウドは環境負荷に対してどれだけ合理的に配置できるのかという議論が出てきます。恐らく、「現状のままでは無理じゃん」という結論になるわけです。
今井 今号では、「今後10年の情報処理アーキテクチャーを探る」と題した論文も掲載しています。やはりこれから大変になるので、分散処理しましょうという…。
川口 結局、エネルギー分野における最適配置と同じ議論だよね。社会のアーキテクチャーの話です。