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 企業の本質とは、ビジネスマンという人間の集まりである。

 前回は、このことに準じて得られる、「人間の集まりを所有することは誰にもできないから投資家は企業の所有者ではない」という、世の中の常識に反する結論を踏まえた話を展開した。

 今回も、同様に企業の本質に準じる話をしたい。企業の本質がビジネスマンという人間の集まりである以上、本来、企業の基本的な方向性を示す中期経営方針に、その大半を占める従業員についての項目がないなどということは、あってはならないことである。

 しかし、実際、ソニーの中期経営方針に従業員についての項目はない。これまでマスメディアで報じられた記事を見る限り、いつものように、エコノミストやコンサルタントなど、経済・ビジネスの専門家とされる人たちは、このことを指摘していない。

 企業の本質は、専門家とされる人たちにとっても重大なものであるはずだ。なのに、彼らはどうしてこうも仕組みや手法(これらは企業の本質ではない属性=偶有性である)のことばかり言って、人間のことを言わないのか。だが、まあいい。ここは、ソニーの中期経営方針の話に集中だ。

 では、ソニーは、中期経営方針にどのような項目を入れるべきなのか。

 かつてのソニーは、『「出るクイ」を求む!』というキャッチフレーズの求人広告を出す(1969年)ほど「出る杭」を求めていた。その広告文には、「ウデと意欲に燃えながら、組織のカベに頭を打ちつけている有能な人材が、われわれの戦列に参加してくださることを望みます」とあった。創始者である井深大さんと盛田昭夫さんも「出る杭」だった。

 ところが、その広告から約30年後の2003年、ソニーは、ソニーショックと呼ばれる株価暴落を引き起こし、いまだに業績低迷から抜け出せずにいるわけだが、その中で、ソニーショック当時の社長であった安藤国威さんは、2004年の日経BPのインタビューでこう語っている。

 『もともとソニーは、出る杭を求める企業だった。(中略)かつてソニーは、奇人変人ばかりだった。その奇人変人の中でも、さらに尖がった人たちが集まる「奇人変人の会」もあったほど(笑)。もっともっと尖った人が入ってくるような企業でなくてはならないし、その人たちが住みにくくなったら駄目なんです』(nikkeibp.jp、「ソニースピリットはよみがえるか 第19回」より)

 また、その安藤さんの次に社長となった中鉢良治さんは、各所で「とんがった出る杭社員こそ組織のエンジン」と話していた。

 ならば、ソニーは、「出る杭」を求めることを中期経営方針に入れてしかるべきである。「出る杭」を大勢獲得できれば、2012年までソニーのトップだったハワード・ストリンガーさんが言うだけで進まなかった、「サイロ(牧草などの貯蔵庫)体質の解消」という、組織の縦割り体質からの脱却も進むだろう。結果、今後の分社化の拡大によって発生する「事業ユニット間の連携低下」という、分社化に伴う副作用を抑えることにもなる。