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アクアビット代表取締役チーフ・ビジネスプランナーの田中栄氏
アクアビット代表取締役チーフ・ビジネスプランナーの田中栄氏
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──未来予測レポートを望む日本企業は増えているのですか。増えているのだとしたら、日本企業に何が起きているのでしょうか。

田中氏:増えていますね。理由は、先にも少し触れましたが、自社の業界の延長線では、10年後の姿が描けなくなってきているからです。電機業界も自動車業界もエネルギー業界も通信業界も、多くの業界がそうなってきています。

 例えば、10年後のクルマを自動車業界が既存の枠組みの中で考えられますか? 電力の10年後を電力会社だけで考えられますか? 直近(2015年5月)のニュースで言えば、電力小売りの自由化に向けて、東京電力がリクルートやソフトバンクと組むといった話が出てきています。こうしたことは、未来の変化を知らなければ考えることもできません。

 未来予測レポートでは、社会全体の大きな潮流の変化を「メガトレンド」と呼んでいます。具体的には、「サステイナビリティ」「クラウド・コンピューティング」「ライフ・イノベーション」の3つがあります()。10年後、15年後のビジネスを考える上で、これらは未来を形づくる大きな流れとして確実に押さえておかなければなりません。実際、これらのメガトレンドによって社会が構造的に変わった結果、求められるビジネスが変わり、業界の形まで変わっている。だから、自社が属している業界の枠組みだけでは今後の事業を考え切れないと悩む日本企業が増えているのです。

 よく、自動車産業がどうなるかと聞かれます。いやいや、自動車産業があるから世の中があるわけではなく、世の中があるから自動車産業があるのです。でも、当事者は勘違いしてしまう。クルマづくりは自動車メーカーが決めるのではなく、世の中が決めるのです。
例えば、社会が持続可能になることを求めるからエネルギーが変わる。この変化に応じて自動車産業が変わるのです。


──業界の形まで変わる可能性があるから、ということなのですね。

田中氏:そう。まだ信じられない人が多いかもしれませんが、現実に今、そうした変化が起き始めているのです。例えば、放送業界を考えてみましょう。この業界はこれまで全て縦割りでした。ところが徐々に、ブロードバンドとスーパーコンピューター(以下、スパコン)、そしてあらゆるエレクトロニクスが融合した「クラウド・コンピューティング」が社会の基盤になりつつある。どこに行っても、クラウドによって新しいスパコンがネットワーク経由で使える。これが前提になれば、わざわざ放送によって番組を受信してテレビ局が決めた放送時間に合わせて視聴することなど、ナンセンスになってしまう。

 放送や通信、電力業界は、全て勝手につながるサービス。つながるということを考えれば、放送と電力と通信なんて枠組みはなくなる。すると、家庭につながることを基盤とした、一体化したサービスを提供するビジネスを考える必要が出てくる。実際に、電力と通信の融合は具体的にどんどん起きている。産業の枠組みや形が変わってきているのです。

 産業にこうした変化をもたらすメガトレンドの1つが、クラウド・コンピューティング。通信やIT、半導体、エレクトロニクスといったものの集合体。これまではみんなバラバラに考えてきたけれど、一体化された産業となります。

 この土台の上で、「サステイナビリティ」と「ライフ・イノベーション」があります。サステイナビリティは、モノが足りないことを前提とするメガトレンド。現在は、エネルギーや資源、食料など、基本的にはお金さえ出せば好きなだけ買うことができる。ところが、今後、新興国で人口増加と経済成長が重なると、あらゆるモノの需要が急増します。世界的な需給の逼迫を背景に「囲い込み」が本格化するでしょう。すると、大量生産と安さを追求する成長モデルが終焉を迎え、「ものづくり」のさまざまな常識が変わっていきます。

 ライフ・イノベーションは、ゲノム(DNA上の全遺伝情報)技術の進歩が引き起こす、生命に関する過去の常識を覆すようなメガトレンド。21世紀に入り、人類は「生命の設計図」を解読して、改変さえも可能になり始めています。病気の根本的原因や老化のメカニズムの解明など、医療では革命的な変化が始まっています。生命を人為的に制御することは、農業や漁業、畜産などにも多大な影響をもたらします。すると、価値観やライフスタイルも大きく変わることになるはずです。

 例えば、医療ではゲノムを見れば、どういうリスクがあるかがどんどん分かってくる。米国の女優のアンジェリーナ・ジョリーは、がん予防のために両乳房の切除手術を受けました。でも、彼女が持っていた「BRCA1(breast cancer susceptibility gene I)」という、その世界で有名な遺伝子も、原因が分かれば治せる可能性がある。実際、アメリカではもう臨床薬も出てきている。つまり、遺伝子を調べることによって、どんな病気になる確率が高いか、0か1かではなくて、少なくともどれくらいの可能性かが分かるようになる。原因が分かるということは、それを治す方法も変わってくるということ。つまり根治ができる可能性が出てくるということです。必然的に、薬づくりも変わるはずです。