東京エレクトロン(TEL)とApplied Materials(AMAT)社と経営統合の破談を受けて、半導体業界と製造装置業界のこれからを見通す今回のSCR大喜利。3人目の回答者は、微細加工研究所の湯之上隆氏である。
微細加工研究所 所長

【質問1の回答】大きな支障はない
国内では「TELとAMATの経営統合」と報じられていたが、海外のメディアは「AMATがTELを買収する」と表現していた。私も実質的に、AMATがTELを買収するものと解釈していた。もしそうだとしたら、AMATはどのような戦略で、TELを買収しようとしたのか。
第一の目的は、多重露光に必要な装置群をすべて手に入れること(図1)。TELには、コータ・デベロッパ、洗浄・乾燥装置など、多重露光に必要だがAMATには無い装置がある。また、両社に重複しているが、TELの絶縁膜エッチング装置と減圧CVD装置は世界シェア1位であり、AMATにとって魅力的である。
このような装置群を有するTELを買収したAMATは、「多重露光のターンキーソリューション」ビジネスを始めるのではないかと予想した。つまり、AMATが用意する装置群をまとめてセットで購入すれば、ボタンを押すだけで多重露光ができるというわけである。
しかし、このような装置のセット売りは、多くの半導体メーカーにとって、ありがた迷惑な話である。半導体メーカーとしては、自社の多重露光の方式に従って、自社で装置を選定したいと思うはずだからだ。また、AMATはシェア1位の装置を多数有することになり、さらに、「ターンキー」に付加価値をつけて価格を釣り上げてくる可能性がある。半導体メーカーとしては、やりにくいことこの上ない。
もう一つの目的は、成長性の高い装置を手中にすることだ。AMATは15種類もの装置を開発・販売し、そのうち8種類がトップシェアであるにもかかわらず、成長が期待できる装置があまりない。これに対して、TELは成長性の高い装置群を多数有している(詳細は最後の「自由記述」)。つまり、何もしないでいるとAMATのビジネスはジリ貧になる恐れがあるため、TELの買収を画策したと考えられる。
しかし、AMATによるTELの買収は破談となった。それは、AMATの戦略とTELの未来には大きな影響を与えるかもしれないが、半導体メーカーの技術開発には、あまり影響しない。むしろ、AMATによる「多重露光のターンキーソリューション」ビジネスがご破算となって、半導体メーカーはこれまで通り技術開発が行えることになり、支障が取り除かれたと言えるかもしれない。