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写真:加藤康
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―― 前回はこちら ――

 「これからでも届けられますけど」。突然の言葉に、様々な計算が頭を交錯する。

 自宅には家内がいるから受け取ることはできる。しかし到着の瞬間には、ぜひ自分で立ち会いたい。これから引き返すとしても1時間以上かかる。第一、仕事に行かねばならない。電話を受けたのは、最寄り駅から職場に歩みだした直後。「すみません、すぐかけ直します」。

 動転した心を落ち着け、状況を整理する。今日これからは無理。明日の朝は予定が入っている。幸い明後日は多少出社が遅くても大丈夫だ。

 即座に相手の電話番号を画面に呼び出す。「はい、明後日でお願いします。午前中で。時間は指定できますか?え、ダメ。えーと、だいたい何時ごろですか?」。聞けば、当日の朝8~9時に電話をするので、詳しくはそのときに相談してくれという。「はい、では明後日。お電話お待ちしています。よろしくお願いします」。

 朝から雲ひとつない日本晴れである。新たな家族を迎えるのにふさわしい一日だ。朝食を済ませて運送会社からの電話を待つ。実は、もう1人、待っている相手がいる。せっかくの瞬間を記録に残そうと、近所に済む写真の得意な同僚に撮影をお願いしたのである。

 近所と言ってもバイクで30分くらい。8時前にメールが入って、8時半までにはこちらに着くという。ひょっとして、それより前に届いてしまったらどうしよう…。とは言え、宅配業者からの電話もかかってこない。8時過ぎに掛けるって言ったじゃないか…。募るのは焦りばかりだ。

 耐え切れずに運送会社のサービスセンターの電話番号を押した。出てきた相手に事情を説明しても、どうにも話がかみ合わない。「あ、それ多分、大型家具や家電の配送の方ですね」。普通の宅配便とは担当が違うらしい。「そうなんです、ごめんなさい。こちらから電話を回すことはできないんですよ~」。

 女性の言葉が終わるか終わらないかのうちに、キャッチホンが入った。しまった、本命だ。慌てて出ようとするが、切り替え方が分からない。

 急ぎ女性に断りを入れ、はやる心を鎮めて、画面に向き合った。改めて出た相手に勢い込んで尋ねる………「えっ、10時ごろ? 今すぐじゃないんですか」。

 ほどなく同僚がやってきた。挨拶も早々、我が家に招き入れ、ソファに案内してコーヒーを勧めると、やることがなくなった。横に並んでそれぞれノートパソコンに向き合う。

 誤算だった。即座に撮影し、おのおの次なる仕事に向かうはずが、とんだ足止めである。しばらくカチャカチャやっていたが、やはり間が持たない。

 「多分、こっちから来ると思うんだよ」。マンションの敷地内を進み、いつも宅配便のトラックが止まる場所に案内する。「せっかくだから、ちょっと散歩する?」「これはゴミ置き場」「こっちに曲がると、ほら、ここから地下に入れる」「これがうちの物置です」。いい大人が、会社も行かずに何をしているのか。