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「できる」も「できない」も等しく妄想

 Kurzweil氏などによる将来予測は、しょせん予測です。そこに厳密な正確性を求めるのは事実上、不可能で、良く言えば大局に立った視点、悪く言えばやはり単なる妄想でしかありません。ただしそれは、崖をよじ登っている“現場”の研究者による「人工知能は人間を代替できない」という将来予測にも当てはまります。実際、現場の研究者は、目の前の課題解決に追われている立場であるが故にしばしば技術の将来性を過小評価しがちです。

 冒頭で紹介したHawking氏らの公開意見書(の添付文書)では、「AIで人間を超えようとする研究が成功する確率の見積もりは研究者によって大幅に異なる。しかし、その確率が無視できるほど低いと根拠をもっていえる意見はほとんどない」としています。そして、この公開意見書では過去の研究者による技術の過小評価の例が紹介されています。

 その一つは、約100年前の原子研究の第一人者でさえ原子力の可能性を見抜けなかった事実です。20世紀初頭に原子の構造を調べる実験「ラザフォード散乱」で著名な物理学者Ernest Rutherford氏は、第2次大戦が始まる数年前まで「(アインシュタインの)原子力はmoonshine(役に立たない妄想)だ」と述べていました。アインシュタインの理論(E=mc2)を否定していたのではなく、実用化にはつながらないとみていたのです。原子爆弾の登場でそれが誤りであったことが明白になったのはRutherford氏が亡くなった後でした。

 また、天文学者で特に太陽の研究が専門だったRichard Woolley氏が1956年まで「惑星間旅行なんて全くのナンセンスだ」と主張していたことも触れられています。Woolley氏は月旅行も現実的でないと考えていましたが、実際には、その翌年にはソ連(現ロシア)が人工衛星を打ち上げ、10年もしないうちに惑星探査機が火星や金星に飛び、発言から13年後には米国のアポロ計画で月への有人探査が実現しました。今では火星有人探査も現実的な話になっています。

人工知能から逃げ切れるか

 人工知能の最先端の研究を取材でいくつか垣間見てきた個人的な感想では、実際の人間の脳の複雑さを考えると、現時点の人工知能技術はまだ最初の一歩にしかすぎず、意識を持ったいわゆる「強いAI」の実現ははるか先だと感じています。しかし、意識などがなくても人間が脅威に感じるほどの“判断力”を人工知能に持たせることは遠くない将来に実現し、多くの人間の仕事を代替していくのは避けられないでしょう。私の記者という仕事も、人工知能という追手から逃げ切れるかどうか。特に今の子供は将来、人工知能とのし烈な競争を迫られ、大変だなあと思う次第です。