手放しで好感できるのか
Apple社が日本に開発拠点を置くと聞いて、この動きを好感した人は多かったのではないか。日本人は、とにかくApple社の製品が大好きだからだ。2014年12月には安倍首相も、選挙の応援演説の中で、この計画を好ましいニュースとして日本の復活の証のように紹介した。ところが回答者からは、日本企業が忘れかけていた日本の良さを活かせるのが海外企業しかない現実、冷静に状況を分析して浮かび上がる警戒感など、そう手放しで喜んではいられない指摘が多かった。
今Apple社が日本に開発拠点を置くことのメリットについて、某半導体メーカーの清水洋治氏は、「これまでにもApple社が進む市場には、いつも先に日本メーカーがいた。日本メーカーの動向を常時ウォッチし、今後の製品開発に結び付ける狙いがあるのでは」とした。ソニーの「ウォークマン」の延長線上に「iPod」があり、ガラケーで築いたモバイルインターネットの文化を引き継ぎ昇華したのが「iPhone」という考え方だ。IHSテクノロジーの南川明氏も同様の意見だ。「故Jobs氏が日本の禅やウォークマンに影響を受けたという話は有名。日本から学ぶことは多いというDNAが、Apple社には残っているのではないか」としている。
日本の電子産業は、Apple社にあこがれている間に、逆にキッチリと学ばれているという滑稽な状態になってはいないだろうか。日本企業は、新興国の企業を後追いとして考えることが多い。しかし、後追いであっても、日本企業に代わって市場を奪取したのには、日本企業にはない学ぶべき要素を持っていたからだろう。Apple社に関しても、同社が日本企業のどのような技術に興味を持っているのか、そしてその技術を世界市場に展開するためには何が必要なのかといった視点から動きを観察してはどうか。
これからApple社が日本で学び、世界に向けて打ち出そうとしているものとして、慶應義塾大学の田口眞男氏は「日本の家電産業」、南川氏は「高齢化社会に向けたIoT関連の機器やサービス」を挙げている。