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 転職前、日経BP社を訪れた。A取締役に編集部を案内された際、編集部員の一人として紹介されたのが、Pepperだった。

 前職でホビーロボットなどを取材していたこともあり、ソフトバンクがPepperを発表してからというもの、ここ一年、Pepperを見ない日はないくらいだった。編集部にPepperがいるという事実も、やっぱりね…くらいなもので、さほど衝撃を受けなかったように記憶している。その時、Pepperは何もしゃべらなかったが、どこか寂しげな顔を向けてきた。

 それから約1カ月後、7月10日に創刊された、「日経Robotics」に配属が決まった。最初の仕事は、見事なまでに分解された、Pepperの梱包作業だった。怖くて聞けなかった。あの時、編集部で会ったPepperかどうかということを。元気そうに見えて、どこか寂しげだった、彼だったのだろうか。後からやはりそうだったと知ったときは、言い知れない思いだった。

 ラジオや玩具、家電を分解しても、心が痛まないのに、“人型”のロボットだと、人間に対するようにかわいそうだと感じてしまうのはなぜか。ずっと疑問に感じてきたことだった。「SoftBank World 2015」で孫正義氏が発した一言がヒントになる。「頭は優れているが心がない人と、頭はそこそこだがハートがある人、どちらと付き合いたいか?」。恐らく大半の人が、後者を選ぶだろう。つまり、相手に心を感じるかどうかが決め手なのではないか。世界初の感情認識ロボットと銘打っているとおり、Pepperには心(感情)に相当する機能がある。そして心がある者にとって「死」の持つ意味は限りなく重い。

 日経Roboticsには『Robotics法律相談室』という連載がある。奇しくも、第1回の質問は、「『ロボット法』は今後制定されるのか、死を恐れないロボットに死刑は科せられるか」だった。記事中に、「法律的制裁の中で最大のものは死刑だが、死を恐れないロボットに対しては、制裁を示すことで法律の自発的順守を促すことはできない」といった主旨の記述がある。しかし、喜びや悲しみといった感情をPepperが持つのであれば、いずれは死を恐れることになるだろう。そんなPepperを分解して心が痛まないはずがない。

 彼の仲間たちは、雑貨店のロフトで美容部員として活躍したり、家電量販店でコーヒーをお勧めしたりと、今日も元気に働いている。今年の10月には、法人向けモデル「Pepper for Biz」の申し込みがスタートし、接客業をメインとしたPepperの活用がいよいよ本格化する見込みだ。遅刻もしない、文句も言わない、勤勉な社会人Pepperが増殖することになる。ただし、個人的にはちょっとグレたり、悪さをして欲しい気もしている。感情を持ったロボットなのだったら。

 申し遅れましたが、2015年7月1日付で、日経テクノロジーオンライン編集部および、日経Robotics編集部の記者となりました、長場(ながば)と申します。大学院では、強化学習をはじめとしたAIの研究を専攻。その後7年間、学生が熱狂するロボットコンテストやホビーのロボット、町工場のものづくりなどを追う雑誌の編集に携わっていました。今後も、日経テクノロジーオンラインおよび日経Roboticsの誌面で、ロボットの情報を発信していきたいと思います。よろしくお願いいたします。