両親の名前の下に

 実に美しいところだった。野原が広がり、池があり、森の中に入った瞬間に手入れされた墓が目に入ってくる。晴れた日のピクニックには最適だろう。3時間、10kmほど歩いただろうか。全く手応えなし。それでもまだ全体の数十分の一に満たない。このペースだと1週間はかかる。やむを得ず断念し、ホテルにチェックインした。

 残された方法は誰かがウェブに書き込んだ墓の場所を見つけるしかない。となるとドイツ語のサイト。さびついたドイツ語を思い出しながら必死で探し回ると、ドイツ語版ウィキペディアで「163-W-29」という番地を見つけた。163区画。地図が脳裏によみがえる。まだ探していないエリアだ。日没までにあと2時間ある。ホテルから再び森林墓地にレンタカーをぶっ飛ばした。日没直前、とうとう目的の墓を見つけた。写真に収めた途端、雨が降り始めた。

 緑の中にうずくまるようにあった墓石には、まずハイゼンベルクの父親と母親の名前が並び、その下に本人と夫人のエリザベートの名前が付け足したように刻まれている。父親の名前には「DR.」を冠し、「大学教授」という肩書きが添えられている。ハイゼンベルク自身には単に「PHYSIKER」(物理学者)とだけあり、ノーベル物理学賞の受賞(1932年)を含めて生前の業績は一切記されていなかった。

ミュンヘン森林墓地(Waldfriedhof)の163区画W-29番地にあるハイゼンベルクの墓。
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