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図1●Everspin社がサンプル出荷を始めた64MビットSTT-MRAMのダイ写真
図1●Everspin社がサンプル出荷を始めた64MビットSTT-MRAMのダイ写真
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図2●Everspin社の64MビットSTT-MRAMの特性。十分な動作マージンを確保している。
図2●Everspin社の64MビットSTT-MRAMの特性。十分な動作マージンを確保している。
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 2012年12月に米国サンフランシスコで開催された「International Electron Devices Meeting(IEDM) 2012」の次世代メモリ分野では、「STT-MRAM」と呼ばれる新型不揮発性メモリの技術発表に高い注目が集まった。三つの技術セッションにまたがり、10件近くの開発成果が披露されるほどの盛況ぶりだった。

 STT-MRAMは、スピン注入磁化反転(spin transfer torque:STT)と呼ぶデータ書き換え技術を用いた磁気メモリ(MRAM)である。不揮発性で動作速度がDRAM並みに速く、書き換え回数が無制限、しかもGビット以上に大容量化しやすいという、理想的なメモリ特性を備える。電子機器の主記憶やキャッシュに使われている揮発性メモリ、すなわちDRAMやSRAMをSTT-MRAMで置き換えて不揮発化すれば、機器の消費電力を大幅に低減できる。例えば、STT-MRAMをマイクロプロセサのキャッシュ・メモリとして使うことで、電源を高頻度に遮断する粒度の細かいパワー・ゲーティングが可能となり、消費電力を劇的に引き下げられる。このように、STT-MRAMは「ストレージ(HDDやNANDフラッシュ・メモリ)は不揮発性、それよりも上位階層のメモリは揮発性」という従来のシステム・アーキテクチャを一変させるメモリだ。

Everspin社のサンプル出荷開始が話題に

 今回のIEDMでSTT-MRAMに関する発表が注目を集めた背景には、会期直前の2012年11月に米Everspin Technologies社が同メモリのサンプル出荷を始めたことがある。これまでは要素技術の開発にとどまってきた同メモリが、いよいよ実用化段階を迎えたのだ。Everspin社は、2006年に業界に先駆けてMRAMを量産化した米Freescale Semiconductor社がMRAM事業を分離して設立したメモリ・メーカーで、実質的に業界で唯一のMRAMサプライヤである。

 Everspin社がサンプル出荷を始めたのは、DDR3インタフェースを備えるDRAM互換の64Mビット品(図1)。産業用のSSDやRAIDカードに搭載するキャッシュ・メモリなどの用途を想定している。これらの用途でキャッシュ・メモリとして使われてきたDRAMをSTT-MRAMに置き換えることで、電源遮断への耐性を高められる他、高速化や低電力化が可能になる。DRAMキャッシュでは、電源遮断時にデータをNANDフラッシュ・メモリに退避させるまでの間は電源を確保しなければならないため、スーパーキャパシタと組み合わせる必要があった。STT-MRAMを使えばスーパーキャパシタを不要にでき、システム・コストを下げられる。

 Everspin社のサンプル品は既に、世界で10~20社が評価を進めている。この供給先にはバッファローメモリが含まれるとみられる。同社は2012年11月の展示会「Embedded Technology 2012」で、STT-MRAMをUSB 3.0対応のストレージ・デバイスに適用した事例を紹介している。このように、ストレージ関連の機器メーカーは、STT-MRAMの採用に積極的な姿勢を示しているもようだ。

 Everspin社は今回のIEDMで、サンプル出荷を始めた64Mビット品のチップ特性を紹介した(講演番号29.3)。90nm世代のCMOS技術で製造し、記憶素子はCoFeB/MgOをベースとしたもの。記憶素子の強磁性電極の磁化がヘテロ界面に対して水平を向く、面内磁化方式を採用している。IEDMの発表では、エラーなく書き換え/読み出しを実行できることや、書き換え電圧とブレークダウン電圧を30σ(シグマ)ものマージンで分離できていることなど、動作信頼性の高さをアピールした(図2)。