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特性の低下に瞬時に対応

 チューナブル・アンテナを発展させていくと,共振周波数以外の特性も含めてアンテナ自身が自律的に状態を知り,各種のパラメータを動的に最適化するというアイデアが出てくる。米Ethertronics Inc.は,このアイデアに基づいたアンテナ製品の開発を進めているメーカーの一つである(図7)。同社の開発動機の一つは,韓国などでモバイル端末向けテレビ放送用に使われている200MHz前後,つまりVHF帯の周波数に対応した内蔵アンテナを作ることだったという注4)

注4) Ethertronics社とアンテナ素子1本でMIMOを可能とする技術を開発したSkyCross社は,いずれも従来技術ながら,Samsung Electronics社の携帯電話機向けアンテナ製品の座を激しく争っている。Samsung Electronics社の欧州向け携帯電話機ではEthertronics社のアンテナ,米国向け製品ではSkyCross社のアンテナが使われている。

図7 アンテナをリアルタイムにチューニング
Ethertronics社の次世代アンテナの構成(a)。アンテナの送受信状態を専用ICを介してベースバンド処理ICなどにフィードバックし,それに応じて最適なアンテナ特性を選択できる。これによって,例えば,携帯電話機を使う場合は人体のない方向に電波の放射界を寄せる(b),周波数帯域幅は狭いが,その分利得などが高い特性を選んで利用できる(c),といったことが可能になる。

 Ethertronics社が開発中の技術では,無線の送受信回路とアンテナ素子の間に専用のチューナー・モジュールを挿入する。このモジュールはアンテナの状態を知る機能を備えており,その情報をRFトランシーバICやベースバンド処理ICなどに伝える。ベースバンド処理ICなどは,その情報に基づいてデータ伝送速度などを変化させたり,チューナー・モジュール内のコンデンサの容量を制御してアンテナ利得の実効値を高めたりする。つまり,通信の総合的な安定性の確保を図る。さらに,アンテナの放射界の形状を変える,あるいはアダプティブ・アレ-・アンテナのビームやヌルの方向をリアルタイムに切り替えることも可能であるという。「人間が携帯電話機をどう持つか,頭からどれだけ離して持つかでアンテナの特性や環境は刻々と変わるため,こうした機能が有効になる」(Ethertronics社 President&CEOのLaurent Desclos氏)。

†アダプティブ・アレー・アンテナ(AAA)=複数本から成るアンテナ素子に入力する信号の位相を変えるなどして,ビーム方向や利得のない「ヌル」方向を制御できるアンテナ,またはその技術。研究開発の歴史は古いが,民生での応用例はPHSの基地局など限られていた。

†ヌル=null。アダプティブ・アレー・アンテナなどの制御によって,利得を持たないようにした方向。