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選択型必修で分野の違い吸収

 三菱重工業は手掛ける事業分野が広い。このため,「選択必修制度」という仕組みで若手設計技術者の基礎学力向上に取り組んでいる。同社は,船舶,航空機,家庭用エアコン,特殊車両,ガスタービン,橋梁,ごみ焼却装置,医療機器,印刷機械,工作機械,冷熱機器など,非常に幅広い分野の事業を抱えている。そのため,設計技術者に求められる技術の知識も千差万別。共通の必修教育だけで対応するのは難しい。その結果,従来は,一部の必修教育を除き基本的な技術の知識の教育を各事業所(現場)に委ねていた。

 しかし,現場に任せると,上司が教育に熱心かどうかで教育にバラつきが出てしまう。それでも若手技術者が自分で勉強していけるだけの強い意志と基礎学力を持っていた時代は問題なかった。だが現在では,そうしたやり方は徐々に通用しなくなってきている。

 そこで,2007年度から導入したのが選択必修制度である。これは,入社1~3年目の設計技術者を対象としたもの。3年間で,決められた選択必修講座の中から所定の単位分の講座を受講することを義務付けるものだ。選択必修講座は全部で19種類あり,受講を義務付けられるのは4単位分である。標準的な講座の場合,1日8時間で3~5日間学ぶのだが,これを終えると1単位となる。選択必修講座のうち「ものづくり一貫実習」という講座だけが例外で,2単位が割り当てられている。

 設計技術者だけを対象としたのは,生産技術/生産管理(工作部門)や品質保証(品質部門)の技術者に対しては,既に業務に特化した基本的な技術の必修講座が存在していたためだ。生産技術/生産管理や品質保証は,事業分野が違っていても求められる技術的なスキルは,大きくは変わらない。従って,同社でも以前から教育のメニューを共通にできていたのだ。

 要するに,選択必修制度は,設計技術者に向けて業務に特化した基礎技術を教育するためのプログラムである。同社の若手技術者向け教育体系には,技術者として身に付けておいてほしい共通の素養を教育する「技術系若手社員必修教育」(対象は入社1~4年目の全技術者)もある。そうした既存の体系に新たに加わったのが選択必修制度というわけだ(図)。

 ここで注目してほしいのが,選択必修講座のラインアップである。選択必修講座では,名前に入門や基礎と付くものが全19講座中10講座もある。また,技術系若手社員の必修教育においても,2000年度から「製図基礎教育」という講座が加えられている。同社が現在,いかに入門や基礎の教育を重視しているか想像できるはずだ。ちなみに,同社ではこうした基礎教育に力を入れる一方で,大学側にも同社を志望する技術系の学生に在学中に履修しておいてほしい科目を提示している。

図●若手技術者の育成で入門/基礎講座を重視する三菱重工業
「技術系若手社員必修教育」では,同社の技術者として身に付けてほしい共通の技術的な素養を教育。「生産技術者教育/品質技術者教育の必修講座」と「設計技術者教育の選択必修講座」(選択必修制度)では,業務に特化した技術の基本を教育する。同社の場合は手掛ける事業分野が非常に幅広いため,共通の講座と業務特化の講座に分けている。
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ピンとくれば忘れない

 そして,こうした入門や基礎の充実に加えて三菱重工業が重視しているのが,体験や実習を取り入れることで知識を本物にすることだ。「1回は大学で聞いたことがあるかもしれないが,ピンときていない。それを体験や実習でピンとこさせる。覚えたことは忘れるが,ピンときたことは忘れない」(同社技術本部技術企画部技術研修所所長の田口俊夫氏)からだ。どんな講座でも,多かれ少なかれそういう要素を盛り込んでいるという。

 例えば「実習で学ぶ電気電子基礎と計測器の使い方(中級電子?)」という講座では,実際にA-D(アナログ─デジタル)変換器やD-A変換器,ローパスフィルタなどの回路と,パルス発生器やオシロスコープを用いて,サンプリング定理を学習している。パルス発生器から出力された正弦波が,A-D変換器とD-A変換器を通過すると,どのような波形に再現されるのかを実体験として学ぶわけだ。入力する正弦波の周波数を上げていくと,再現される波形がある周波数を超えた途端,似ても似つかないものになる。それを自ら電子回路や計測器を使って確かめてみることで,実感を持って学ぶことができる。

 そして,こうした要素をこれでもかというほどに取り入れているのが,前に触れた2単位の講座「ものづくり一貫実習」である。これは全12日間から成る講座で,前半の8日間と後半の4日間に分けて,一通りのものづくりのプロセスを体験するもの。例えば,「ある面積に一定の圧力をかけてプレスする装置を造りなさい」というテーマを与え,最初の8日間で基本設計と詳細設計,さらには部品の発注までを個々に体験してもらう。そして,発注した部品ができてくる2カ月後にまた集まり,4日間かけて自分で設計した装置を自分で組み立てる。受講生たちには,そうして組み立てた装置が100回安定して動くことが条件として課される。

 「こうした経験を通じて,いかに自分が組み立てにくい設計をしていたかが身をもって分かるようになる。通常,若手が設計した装置は50回ぐらいで動かなくなる。それを100回動かすという課題を与えることで,トラブル・シューティングのための訓練にもなる」(田口氏)。新卒や若手技術者の基礎学力不足が指摘される中,三菱重工業は基本に立ち返ってプログラムを見直し,入門/基礎と体験/実習を重視した独自の人材育成体制を構築したのである。