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(前回から続く)

 制御アルゴリズムに改良を加え続けてきた岩崎だが,2002年の終わりごろにはソフトウエア担当だった岩切にある事実を伝えた。

「制御アルゴリズムの改良ですが,これ以上再計算させても効果は望めないところまで来ています」
「そうですか…。分かりました。では制御アルゴリズムは,これでフィックスしましょう」
「はい,そのようにお願いできれば。もう量産仕様を最終決定する時期ですから…」
「この先の駐車精度の向上は,制御アルゴリズムをいじらずにこっちで何とかやっていきます」
「よろしくお願いします」

 開発チームに残された時間は,もう多くはなかった。この時期にソフトウエアなどの量産仕様を最終決定する必要があったのだ。

 こうして制御アルゴリズム自体に手を加える作業は終了する。だが,制御アルゴリズムをここまで変えても,プリウスの駐車誤差の問題は解決にまで至っていなかった。その背景には,ステアリングの遊びやタイヤの空気圧などハードウエア的な側面以外に,制御遅れの問題があった。例えば,運転者に不快感を与えないようにステアリングを滑らかに回す必要があったのだが,その制御にかかる時間が想定時間に比べて遅れてしまうのだ。こうした問題は,実際の車両上で手を加えながら解決していくしかなかった。

定食屋の2人

 退社時間がとっくに過ぎたある晩,会社の近くにある定食屋に,また今日もさえない表情の2人の男が現れた。

 「はぁ~,駐車誤差を減らすいい方法が何かないかなぁ…」
 「本当に弱りましたねえ…。このままじゃまずいですよね」
 「うーん…」

 会話の主の1人は里中。そして,その里中と向かい合いながら食事をするもう1人の男は,アイシン精機の田中優だった。田中は今回の駐車支援システム開発で,バック・カメラのシステムやユーザー・インタフェースの開発を担当するアイシン精機側の取りまとめ役である。東富士研究所から単身赴任していた里中と,まだ独身だった田中は,毎晩2人で連れ立って定食屋に夕食を食べに来ていたのだ。もちろん,田中の分は里中のおごりだった。