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 ディスプレイ関連の国際学会・展示会「SID 2009(2009 International Symposium, Seminar, and Exhibition)」が2009年5月31日~6月5日,米国San Antonioで開催された。今年のSIDは,新型インフルエンザと大不況の影響で,例年の半分ほどの参加者数にとどまってしまったことで後年の記憶に残りそうだが,もう一つあるトレンドが明確になった会議でもあった。それは,キーワードで表現すると「フレキシブル」である。とりわけ,有機TFT(薄膜トランジスタ)や酸化物TFTという次世代デバイスを利用したアクティブ型の有機ELディスプレイを使ってフルカラー動画をデモした発表が高く評価された(Tech-On!関連記事1)。

 中でも,注目されたのが,ソニーのフレキシブル有機ELの発表であり,「最優秀論文賞(Distinguished Paper)」にも選ばれた(Tech-On!関連記事2)。

割れにくくユニークな形態に

 ソニーが,有機TFTを使ったフレキシブル・ディスプレイの開発を進める動機は何だろうか。同社は,「有機TFTならばプラスチック基板が使えるために,薄型化,軽量化をさらに推し進めても,従来のガラス基板を用いたディスプレイで問題であった割れやすいという問題を解決できる。加えて,従来にないフレキシブルな表示デバイスや曲面を生かしたユニークな形態の表示デバイスが可能になる」点を挙げる(野本和正,「有機トランジスタが拓く有機EL・電気泳動ディスプレイの可能性」,『有機エレクトロニクス2010-2015』,p.24)。

 ソニーが開発した有機TFTの構造は,ボトムゲート・ボトムコンタクト型である。中核となる有機半導体には,ペンタセンを用いている。ゲート電極には金,ソースとドレイン電極には白金/金を,ゲート絶縁膜とパッシベーション膜にはポリマー材料を使っているが,パッシベーション膜を除いた全ての層を形成した後に,ペンタセン膜を蒸着によって形成している。このため,各層を形成する際に使う溶媒でペンタセンにダメージを与えることなく,高性能なペンタセン膜を形成できたという。

 また,ソニーによると,有機TFTの性能向上には,ペンタセンと有機ゲート絶縁膜および電極との界面を制御することが重要である。このために,同社は有機絶縁膜中にシランカップリング剤を添加して撥水性とすることによって移動度を高めたり,ソース・ドレイン電極とペンタセンの間の接触抵抗を下げるために積層構造の電極とするなどの工夫を加えた。同社はさらに,こうして作製した有機TFTをトップエミッション構造の有機ELと高精細に集積化する方法を開発し,この構造によって世界で初めて,フルカラーの有機TFT駆動の有機ELディスプレイを実現することに成功したのである。

 試作したパネルのサイズは2.5型,画素数は160×RGB×120であり,指で曲げても動画表示が可能である(図1)。これは,絶縁膜にすべて有機膜を使っていることから,パネルを曲げても画素内に割れが生じることがなく,柔軟性に優れているためである。

【図1】有機TFT駆動フレキシブル・カラーELディスプレイの表示状態。指で曲げても表示できる(ソニー)
図1 有機TFT駆動フレキシブル・カラーELディスプレイの表示状態。指で曲げても表示できる(ソニー)
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