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 発泡スチロールといえば,魚屋や市場で見掛けるトロ箱を思い浮かべる人が多いだろう。発泡比率にもよるが,かさ比重が0.01の超軽量成形体である。ほとんどが空気なので断熱性能に優れ,しかも構造物としての強度もある。氷などを入れて鮮魚などの魚介類を運搬するのには,最適といえる。

 その発泡スチロール,身近にあふれている。トロ箱のほかにも家電製品などの緩衝材として製品を保護しながら運搬する際に役立っているし,屋根裏の断熱材や,最近では道路の軽量基盤材としても使われている。

 このように「発泡スチロールといえば軽い」という特徴を機能として使うケースがほとんどなので,おのずと用途開発の方向性でも「軽さ」に行ってしまう。表現は悪いが,軽かろう安かろうといったイメージの材料である。

 ところが,その発泡スチロールに新たな付加価値を見いだし,新商品を開発している会社があった。軽量・低コストは過去のこととばかり,新しい機能を発泡スチロールに持たせたのである。誰もがもう用途開発の余地はないと思っていた,発泡スチロールを使った新商品。まさに,付加価値とは創造するものなのだ。

コルクから発泡スチロールへ

 龍野コルク工業は,その名の通り,もともとはコルク製造会社だった。コルクといっても,同社が扱っていたのはワインの栓などに用いられる欧州(主にポルトガル)産のコルクではなく,岡山県の沿岸地帯に樹生するアベマキの樹皮をはぎ取り,それを蒸し焼き加工したものだ。この「炭化コルク」は黒くて硬く,弾力性に優れている。さらに,熱を通しにくく,湿度調整や吸音などの性質を持つ。そのため保温材や防音材などのほか,軽量ということから救命具などにも利用されている。

 同社の炭化コルクは,第2次世界大戦中および戦後しばらくの間は,保冷倉庫や冷蔵庫の断熱材のほか,旧国鉄時代には貨物列車のタンク用の保冷カバー,1960年代には家電製品の緩衝材や構造部材など,数多くの製品に使われた。

 当時,ハイテクだったコルクの製造を国内でいち早く手掛けた同社は,コルクに代わる発泡スチロールがドイツで開発されると,すぐさま炭化コルクの生産設備を改良し,国内初の発泡スチロールメーカーとして名乗りを上げた。

 このように,新しいものを最初に取り入れるパイオニア精神が,同社に綿々と受け継がれているDNAなのだ(図1)。同社は現在,コルクを全く製造していないし,取り扱ってもいない。なのにコルクという名を掲げ続けているのは,会社がつむいできた歴史と,このパイオニア精神の表れといえる。

 それにしても,コルクを社名に据えながらコルクに触らないこの会社,ユニークといえばユニークだ。なぜにコルクから発泡スチロールになり,そして,なぜに発泡スチロールに新しい機能を持たせた商品作りにまい進するのか。その訳を知りたくなるのは,筆者だけではないだろう。

図1 工場内の設備
設備も最新鋭。既存商品にも手を抜かない。

変な工場

図2 NC加工機
工具はエンドミルだが,制御に工夫があるようだ。
図3 発泡スチロールの巨大な塊
発泡スチロールの板を造るためには,まず大きな塊(バルク)を成形する。写真は道路の軟弱地盤用のもの。
図4 ニクロム線が複雑に動いて,異形品を作製する

 龍野コルク工業の工場に入ってすぐに,私が知っている発砲スチロールの工場とは雰囲気が違うことに気が付いた。とにかく,普通の発泡スチロール成形工場には見られない機械が多いのだ。図2の機械は何と,NC加工機。つまり,発泡スチロール成形品を3次元で削っているのである。

 もともと,発泡スチロール成形品は規格大量生産が原点なのだから,少量,それも一品物などを作ろうという発想はないはずだ。だが,この工場は違う。削るし,切断するにもNCを使うのである。

 ご存じだろうが,発泡スチロールの板を造るには,まず図3のように大きな塊を造り,それをニクロム線で溶融切断する。その際,一般にはワークを載せたテーブルに対してニクロム線は水平,あるいは垂直の一方向にだけ動く。しかし,この工場の加工機はニクロム線が,水平方向に加えて垂直方向にも動く。さらに,スピード調整を行うことによって,発泡スチロールを複雑な形状に切断することを可能にしている(図4)。

 だから,当たり前だが普通の発泡スチロール工場にはいない機械の制御要員,つまりプログラマーがいるのである。さらに,そのような加工の基となる図面が必要なので,設計者もいる。

 普通の発泡スチロール成形工場をけなしているのではない。それはそれで大切なものづくりなのだが,この工場は誰もが持っているような機械で製造し,同じ加工をしているのではないところが普通とは違う。良い意味で「変」なのだ。

 この工場には,長い歴史とパイオニア精神がある。考えてみると,歴史とは始まりが古いことであり,パイオニア精神とは先進的なことである。龍野コルク工業は,他社に先んじたり,リスクを恐れずに変化に臨んだりと,実に進取の気性に富んだ会社なのである。

成形しない発泡スチロール