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 高名な登山家が,なぜ山に登るのかと聞かれて,そこに山があるからだと答えたのは有名な話。しかしこの話は,そう単純ではない。この登山家,ただ目の前にある山を片っ端から登っていたわけではない。自分が登りたい,どうしても挑戦したい,そういう山に登ったのである。誰にも登頂されていない山に登ることや,困難な登頂ルートを切り開くことが,その登山家にとっては最高の喜びだったのだ。もっと言えば,困難であればあるほど頂上に立ったときのうれしさは増大する。それを得るために山に登ったのである。「征服」というくらい,登頂困難な高峰登山には,難事に打ち勝って達成感を得る,そういう魅力がある。

図1 本社の外観
外壁が自社製。
図2 ロビーにあるオブジェ
その周りの成形されたイスも,さらに内壁も自社製。

 このように人間は,誰もしていないことや,誰も持っていないものに引かれる本性を持っている。難事に打ち勝ち,目的を達成する。その喜びを求めることは本能なのだ。そして,それが困難であればあるほど,高峰登山と同様,達成したときのうれしさが倍増するようになっているから厄介だ。ハードルが高ければ高いほど意欲も大きくなる。それが人間なのである。ひょっとすると人間は,限りなく困難に立ち向かうDNAを持っているのかもしれない。

 クルマは,造り手も買い手も,その意味では代表的なものかもしれない。高級車であれスポーツカーであれ,およそ名車といわれるクルマには,造り手も買い手も命懸けと言ってよいほどのめり込み,最高峰を求める。

 クルマに対する好みは,人の数だけさまざまある。でも,「フェラーリ」をヘボなクルマと言う人は少ないだろう。誰もが,一度は乗りたいクルマだ。

 そのフェラーリを卒業して,欲しくなってしまうようなクルマを造ろうとしている会社がある。最高峰を極めた者がさらに手に入れたくなるクルマ,それを造ろうというのである。

 こんな厄介な,しかし,こんな楽しい話はない。

道楽かビジネスか

 この会社,モディーという。東京の目黒にある村上商会という会社の,グループ会社である。村上商会は,自動車および自動車パーツの企画・営業・開発管理会社。変わっているのは,自動車のエアロパーツなど,オプションで選ぶ純正部品やカスタマイズ部品を専門に扱っているところである。量産ラインの部品ではないので,新車の販売台数と同数ではなく,むしろ中量/少量品だ。

 モディーは村上商会グループの試作開発研究部隊という位置付けだが,企画からデザイン,設計,製作,実験までをこなし,何でも造ることができてしまう日本のカロッツェリア(車体をデザインして製作する工房)だ。何でも造る,そう言うと,普通はその業界の中でのことと思うだろうが,ここは違う。本当に「何でも」なのだ。

 図1はモディーの本社だが,その外壁はモディー製。何と,エクステリアも造っているのだ。さらに,中に入るとオブジェがあり,それも自社製(図2)。本当に本業は自動車なのかと疑いながら,さらに奥に進むと展示室があり,そこには本物のクルマがあった(図3)。

 ナンバーが付いているのでお分かりだろうが,このクルマは市販されていた。ただし,限定100台。ほかにも,見ただけでうれしくなるようなユニークなクルマの数々。電気自動車(EV)だってある。

図3 自走可能なクルマ
2輪や3輪のEVもある。

 クルマがあるので,やはり自動車関連メーカーなのだとやっと安心しかかったときに見せられたのは,家具(図4)。家具までも造っているのかと恐れ入る。そして極め付きは会議室のテーブルで,素材はといえば,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)だった。失礼ながら,何で会議室のテーブルにCFRPなのか,そこが分からない。会議室の大きなテーブルが,超軽量かつ高剛性である必要がどこにあるのだろうか…。そんな筆者の気持ちを察したのか,「使ってみて初めて物の良しあしが分かりますので,自分たちで使うものはできるだけ自分たちで造ります」と,同社の村上竜也社長に言われて納得した。要するに,エクステリアからインテリアまで何でも造れる会社なのだ。

図4 家具も造った
収納式の家具(a)。観音開きの扉を開くとパソコンの作業台になる(b)。

 何でも造れるということは分かった。分かったのだが,本当にビジネスとしてちゃんと成り立っているのだろうかと,ひそかに心配になった。造る楽しみを追うのは道楽だが,それでビジネスになることは極めてまれである。

 しかしそんな心配は,詳しい話を聞いてすぐに吹っ飛んだ。この会社,見た目は道楽者(大変失礼!)だが,実はしっかり者。しかも,スマートなビジネスマンでもあるのだ。