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 プレス成形といえば,金型は絶対に必要なもの,そんなことはものづくりの常識中の常識。だと思っていたら大間違い。なんと,金型を使わないでプレス成形をしている会社があったのだ。

 金型が要らないから,正確にいえばプレス成形ではない。いやいや,金属の板を望む形状に延ばして成形し,結果はプレスと同じになるのだからプレス成形といえなくもないが,どう呼んだらいいのだろう。えいっ,そんなことはどうでもいい。とにかく金型を使わないで3次元形状を成形するのだから,すごい。そうだ,すごい成形方法といえばいい。

 筆者はそう叫んだのだが,開発した会社が付けた呼び名は「ダイレスNCフォーミング」。確かにダイ(型)レスだし,NC制御だし,成形加工だ。でも,そうアッサリと呼んでしまってはもったいないくらいに感動する成形方法である。金属の板が固定され,先の丸い工具がほとんど音もなく板に接しながら動くとそこが盛り上がってくるのだから,何やら手品を見ているような感覚がする。そうか,この会社はプレス装置製造で有名なアミノ(本社静岡県富士宮市)だから,「アミノ・マジック」と呼ぶことにしよう。

 100年に1度の大不況。冷静になって振り返れば,物があふれ,生産過剰になっていることも分かった。ならば,これからのものづくりが少量多品種生産になるのは必然だろう。そこに登場した金型不要の成形技術は,これからのものづくりの原点回帰,期待の星ではなかろうか。

富士山を成形する

図1 音もなく,工具がすそ野に沿って動いている
まさに造山運動。
図2 A0判サイズの富士山
このサイズでも,やはり日本一の山である。

 まず,図1を見てほしい。写真だと分からないが,工具は音もなく回転することもなく,金属(この場合はアルミニウム合金)の板に接しながら,ちょうど山のすそ野に向かって動いている。よく見ると,そのすそ野が少しずつ盛り上がっていくのが分かる。平らな板から富士山の形に盛り上がっていくのである。ウソではない。本当に,平らな板から山ができるのだ。何百万年,何千万年かかるであろう造山運動を,まるで時間を縮めて目の前で見ているような不思議な感覚。出来上がった富士山は,縮尺1万7000分の1。高さ方向だけ1.5倍にして美しく見えるようにしているのだそうだが,まさに堂々たる富士山だ。国土地理院が公開している精密3次元データを基に制作ソフトを開発し,それを利用して作った逸品である(図2)。

 さあ,この超精密富士山をプレス成形しようとしたら,一体,金型はどうしたらいいのか。ものづくりにかかわる者なら,きっと途方に暮れるに違いない。まず,これだけの複雑形状を一発で成形できるなんて思う人は素人。多分,3個か4個の金型を使って,順番にたたくしかないだろう。しかも,これだけの複雑な形状を,板厚を考慮しながら上下合わせるのだから,難しいを通り越してご無体といった方がいいくらいだ。さらに,頂上の噴火口の形状をどうしようかと思う人はナカナカの人だ。そう,噴火口の縁の凹凸を成形するのは,容易ではない。冷間でこの形状を引っ張り,そして寄せるのは至難の業といえる。

マジックの種明かし

 ダイレスNCフォーミング。つくづくこの呼び名はもったいないと思うのだが,言われれば,ほかにはない気もする。名は体を表すの言葉通りの,この機械の構造から説明しよう。

 全体は,門型加工機のような姿をしている(図3)。3次元のCAD/CAMデータを基に工具を動かし,板をしごくような状態で塑性加工する。もっと詳しい図を見ていただければお分かりだろう(図4)。工具は上下,つまりZ軸に沿って動くだけで回転はしない。下方のX/Y軸方向に動く移動テーブル(XYテーブル)の中央に治具(固定ツール)があり,成形する板(ワーク)はその上に置かれ,四方を,テーブルに配置した押さえ板で挟むように固定する。

 NCデータを基に動くXYテーブルに固定されたワークが,最初は固定ツールの近くから工具によってしごかれる。具体的には,固定ツールが少し下に動いて,その分だけ工具と当たっている個所が変形する。そして,これを繰り返すことで成形していく。マジックの種明かしをすると,こんなにシンプルなものだった。工具の先は丸くなっていて,滑らかに板をしごいていく。工具が回転しないのに当たることで板が変形していくさまは,何回も言うがまるでマジックみたいだ

 ただし,この機械の緻密な動きを実現するために,専用のソフトウエアを開発した。また,超精密成形では,例えばこの富士山なら,固定ツールも富士山の形にする。金型ではない。樹脂製の型だ。軟らかい樹脂なので,あっという間に製作できるという。

 初めは,頂上から成形が進む。噴火口の形が出来上がり,だんだん工具が回りながらすそ野に下りてくるような感じで富士山を形作っていく。きっと,本物の富士山ができる過程では何回もの大噴火があり,それこそ天地創造のすさまじい光景だっただろうが,この超精密富士山の場合にはほとんど音もなく出来上がっていく。実に不思議な感じだ。

* 成形の様子はアミノのWebサイト(http://www.amino.co.jp/products/24.html)で,動画で見ることができる。
図3 ダイレスNCフォーミングの原理
基本は3軸NC。
図4 ダイレスNCフォーミングの仕組み
XYテーブルの中央にある固定ツールと,周辺の押さえ板によって加工対象のワークをテーブルに固定する。工具はZ軸に沿って上下するのみ。

少量生産のニーズ