2008年に入り,ライフ・レコーダーをめぐる動きが音を立てて激しくなってきたのには,ワケがある。それは,いわゆる「メタボリック症候群」への関心の高まりである。
ライフ・レコーダーへの取り組み自体は,決して最近になって始まったわけではない。例えば,2003年度には,総務省による委託研究「ユビキタスネットワーク技術の研究開発」が開始された。この中の一つの取り組みとして,KDDI,KDDI研究所,九州工業大学,東京大学,慶応義塾大学,NEC,富士通による研究グループ「Ubila」が,個々人の行動を記録・分析するための基盤技術の開発を進めてきた注2)。91ページの写真は,Ubilaが描くライフ・レコーダーの将来像の映像を抜粋したものである。
注2) 2007年度からKDDIのプロジェクトはKDDI研究所と統合された。
しかしこれまでは,これといったライフ・レコーダーの用途が見つかっていなかったのが実情だった。そこに登場したのが,2008年4月に始まった「特定健診・特定保健指導」(以下,特定健診)である。これが,ライフ・レコーダーを「旬」なものにするキッカケとなった。特定健診では,40~74歳の被保険者・被扶養者を対象に,メタボリック症候群もしくはその危険性の高い人に対して,保健指導が義務付けられる。
指導の際に重要なのが,1日に摂取するエネルギーと,消費するエネルギー(活動量)を正しく把握すること。健康機器メーカーが,こぞって活動量計を発売し始めた理由は,ここにある。「1日の消費エネルギーを把握するため,普段の行動をすべて頭で記憶したり,手帳に記したりするのは不可能に近い。これを,ただ身に着けておくだけで正確に分かるようにしたのが活動量計だ」(松下電工 電器事業本部 電器新事業開発センター 新ビジネス企画グループ メタボリックソリューションビジネス 参事の西野健司氏)。
特定健診という用途は,ライフ・レコーダーの今後の市場拡大を占う試金石になるとの見方が多い。ライフ・レコーダーの開発に携わる複数の技術者は,「特定健診向けツールとして活動量計が有用だという認知が進めば,市場の注目がさらに高まり,開発も加速する」とみる。健康機器メーカーのほとんどは,活動量計を当初は保健指導者などの専門家向けに発売するが,製品の反響次第ではすぐにでも一般消費者向けに幅広く展開する考えである。「価値が認められれば,2009年度中にも一般向け製品を投入する」(松下電工の西野氏)。その場合には,より安価にしたり使いやすくしたり,あるいは活動量の測定以外の使い方を提案したりするなど,さまざまな進化を伴うことになるだろう。
掃除も洗濯も正確に判別
それでは,ライフ・レコーダーの第1の用途として浮上した特定健診に向けたツールである活動量計とはいかなるものなのかを見ていこう。
活動量計は,3軸もしくは1軸の加速度センサを搭載しており,このセンサが利用者の動きを計測し続ける。計測した動きから,どんな動作をしているのかを割り出し,消費エネルギー,すなわち活動量に変換する(図2)。
(a)松下電工の端末を使用した例
ここで重要なのが,例えばその動作が歩行なのか,あるいは家事のような日常作業なのかというように,動作の種類を計測データから判別すること。従来の歩数計でも活動量を表示するものは存在するが,あくまで歩数しか見ていないため,例えば皿洗いのように歩かなくてもエネルギーを消費するような動作の場合には,正しい活動量を測定できなかった。