特定健診向けツールとして,第一歩を踏み出したライフ・レコーダー。だが,さらなる市場拡大を目指すには,それ以外の幅広い用途を見いだす必要がある。実際,それには幾つもの可能性がある。記録し続けた個々人の1日の行動や生体情報を利用する,さまざまな応用が考えられるからだ。
日立製作所の中央研究所は,ライフ・レコーダーの新たな用途を模索している。そのために,冒頭で示したような腕時計型端末などを利用して,実際に複数の社員が数年にわたってデータを取り続けているという。この研究に携わる主管研究長の矢野和男氏は「継続的にデータを採っていると,実にいろいろなことが分かってくる」と指摘する。
例えば,3軸加速度センサで取得し続けた数年にわたる情報を行動の強度によって色分けし,横軸に1日の時間,縦軸に日単位の時間経過を示した「ライフ・タペストリー」と呼ぶグラフを作成した(図4)。そのグラフは,規則正しい生活の人,不規則な生活の人,海外出張に行った人,活動的な人など,個々人の生活の傾向をハッキリと映し出す。「その人を表す顔写真」(矢野氏)というほど,違いが鮮明に分かる。

ライフ・タペストリーにまつわる,こんな話がある。実験に参加したある兼業主婦が自分のライフ・タペストリーを家族に見せたところ,夫はごみ捨てや朝食の用意,娘は洗濯と卵焼きを作るという家事の協力をしてもらえるようになったという。そのライフ・タペストリーを見れば,出勤前の朝の時間に非常に忙しく動いていることが一目瞭然だったからである。