東芝以外のメーカーも,研究用途から産業用途へと移行する市場を見据えて虎視眈々と市場攻略のチャンスをうかがう。「いつ市場が化けてもよいように準備している」とは,複数の国内メーカーの弁だ。
ごく最近では,松下電器産業が2008年8月,診断など産業用途における5年後の実用化を目指し,DNA解析システムの開発を進めると発表した。同社が甲南大学と共同開発した,DNAの結合を電流で検出する独自技術をベースにする。電流検出という概念は東芝と同様だが,プローブ用のDNAを基板に固定しないという特徴がある技術であり,「従来のように固定用のAu電極が要らず,より安価にできる」(松下電器)と主張する。
東芝や松下電器といったエレクトロニクス・メーカーがこの分野に力を注ぐのは,それぞれのメーカーが保有するコア技術を活用することで,独自の魅力ある製品を開発できると踏むからだ(図4)。実際,東芝は電流検出型のDNAチップを開発するに当たり,自社で保有する電子回路や半導体,装置などの技術が生きたとしている。
このような狙いから開発を進めるメーカーは,もちろんほかにもある。例えば,横河電機である。「まだ工業化(産業応用)されていない現状に,我々が取り組むカギがある。工業用計測機器を扱ってきたメーカーとしてのノウハウを生かせると考えた」(同社 常務執行役員 技術開発本部長の白井俊明氏)。同社が開発を進めるのは,集積型カートリッジを特徴とするDNA解析システムである。2007年6月に動作検証を終え,現在は再現性や使い勝手の向上,解析時間の短縮などに取り組んでいるという。
計測機器メーカーとしてのノウハウは,特に検出装置に生きている。蛍光検出型を採用しているが,複数の蛍光を一度に読み取るマルチビーム方式を開発した(図5)。従来の一般的な検出装置に比べ,ステージをXY方向に動かす機構などが不要になるため,「小型,低コスト,低振動・低騒音が実現し,医療現場などでの応用が可能になる」(横河電機)と胸を張る。