まず(1)の許認可は,特にエレクトロニクス・メーカーにとっては不慣れでかつ,膨大な手続きが必要となる。しかも,審査に時間がかかり,その期間が読めないというリスクがある。「許認可がネックとなり,最初から市場参入をあきらめるメーカーも少なくない」(名古屋大学の馬場氏)。
この壁を打ち破るためには,医薬メーカーなどと手を組むことを真剣に検討すべきだろう。実際,東芝は積水メディカルと組むことで薬事申請にこぎ着けた。たんぱく質チップなどの開発を進めるオムロンは,「許認可は分からないことだらけ。ノウハウを持つ会社と手を組んだ方が早い。展示会にチップを出展しているのは,パートナー探しの意図もある」と打ち明ける。
もちろん,食品や環境といった診断以外の産業用途が前提であれば,こうした許認可の懸念は不要になる。ただし,「現段階では市場が未発展ながら拡大が確実視される診断分野と異なり,診断以外の用途の市場は未知数」(複数の業界関係者)というのが実情だ。これが,(2)の診断以外の産業用途が未開拓という壁である。
既に医療分野に取り組んでいる東芝は,「食品やバイオ・テロといった分野も手掛ける。大きな市場が眠っているかもしれない」(同社の二階堂氏)とし,非医療の市場も模索する構え注14)。名古屋大学の馬場氏は「非医療の市場が構築されれば,参入メーカーが増える可能性が高い」とみる。今後の非医療の用途開拓の行方は,市場の盛り上がりを大きく左右しそうだ。
注14) 例えば,東芝は2008年3月,警察庁 科学警察研究所,帯広畜産大学と共同で,生物剤検知用のDNAチップを開発したと発表した。生物剤などを使用した大量殺傷型のテロが起きた場合などに,生物剤の種類を検知する。空港や駅などへの導入を想定する。
(3)の標準が存在しないという壁は,試料の抽出法や操作の手順などについて,共通の取り決めが存在しないことである。こうした標準がないと,取得データの信頼性が欠けたり,異なるシステム同士でデータを参照し合うことができなかったりする。結果として,それが市場拡大を阻む恐れもある。
この状況を打破するため,2007年10月に活動を始めた業界団体が,バイオチップコンソーシアムである。2008年7月末現在,東芝や東レをはじめとする70社が参画する。標準化をはじめとして,産業応用に向けた課題の洗い出しと解決に,業界を挙げて取り組む考えだ。