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 富士通が公差解析ツールを導入したのは2004年。設計者は解析部門〔富士通アドバンストテクノロジ(本社川崎市)〕に委託し、解析結果から寸法値や公差をどう変更するかといった対応方法についても教えてもらうという使い方だった。

 例えば、プリント基板を筺体に固定する際に、ねじ留めする穴の位置がずれてしまう問題が発生した(図1)。基板と筺体のそれぞれに固定してあるコネクタをはめてからねじで締結するため、コネクタの取り付け状態がねじ穴の位置に影響する。そのため、プリント基板側の穴を少し大きくしてあり、ある程度のずれは許容できるはずだった。設計者は手計算で公差検証し、問題がないことを確認したはずだったが、実際に組み立ててみるとねじ締結できないほどのずれが発生した。

図1●プリント基板締結部の公差検証
コネクタをはめた後に、基板を筺体にねじで締結する。このため、ねじ穴がずれているとプリント基板に無理な力が加わってしまう。実際、公差解析を実施してみると、高確率で穴ずれが発生することが判明した。

 公差解析を実施してみると、穴がねじを締められないほどずれる確率は約41.5%。良品率は0.22σであるという結果が出る。このような状態で強引にねじ留めすると、基板に無理な力が加わってしまう。

 手計算の内容を見直してみると、手計算では1次元で公差を積み上げていくような計算しかしておらず、コネクタ実装部のレバー比*1やガタの影響を考慮していないことが判明した。「コネクタを実装する際の条件はかなり複雑で、単なる考慮漏れというよりは手計算に限界があった」(富士通アドバンストテクノロジHPC適用推進センター構造プラットフォーム開発グループの濱添一彦氏)。

*1 レバー比 部品の寸法の変化が、製品(アセンブリ)の寸法にどの程度拡大(または縮小)されて伝わるのかを示す値のこと。

 このようなこともあり、富士通では2006年から設計者も公差解析ツールを使えるよう、同ツールの操作教育を開始した。「設計品質を高めるには、より上流で公差設計を設計者自身が実施する必要がある」(同氏)。

 この結果、徐々に設計者が公差解析ツールを使いだしたが、公差解析ツールの条件設定や結果の見方については、「設計者はどうもしっくりきていないようだった」(同氏)。ツールの操作方法の教育だけでは、上流工程での公差検討という目的を十分に果たせなかったのだ。

独自の演習問題を作成

 公差設計の基本的なスキルを向上させる必要性を感じた富士通は2007年、現場の技術者の実力や公差設計のやり方などについての調査を開始した。設計現場に公差検討の現状をヒアリングしてみると「公差設計は困ったときにやっている」「デザインレビューの実施基準に公差検討が入っていない」「公差の積み上げ自体ができない」といった実態が明らかになった。

 同社では「この10~15年で部品が内製から外注・購入へと大きく変わり、社内は組立主体になってきた」〔FUJITSUユニバーシティ(本社川崎市)テクノロジ研修グループプロダクトスキル開発シニア・プランナの金田裕之氏〕*2。公差に関しては基本的にOJTで対応していたが、不適切な公差であっても生産現場で柔軟に対応していたこともあり、公差設計を業務の中で実施する機会が徐々に少なくなっていたのだ。

*2 FUJITSUユニバーシティは、富士通グループの人材育成を担う会社。

 そこで富士通は、2008年から公差設計スキルを身に付けるための講座を開設。基礎編と応用編の2つを半年にそれぞれ1回、特定の開発部門の技術者を集める講座を不定期ながら年に5~6回開催するようになった。2009年の受講者は、延べ300人日になるという。

 この講座は、公差設計のコンサルタントであるプラーナー(本社東京)に委託しているが、応用編の演習問題で使用する事例に関しては富士通独自の問題を作成した(図2)。「技術者にとって親しみのある事例を使った方が、受講者の理解が早まり、実際の業務で役立つ」(同氏)と考えたからだ。事例作成に当たっては、複数の開発部門の意見を取り入れて、ある程度汎用性のあるものとしている。

図2●公差解析教育の演習問題
富士通では、公差解析の教育カリキュラムの中で使う演習問題として、自社製品を応用した問題を作成した。実業務へ展開しやすくすることで、教育効果を高める。

 公差の講座の開始後に出図の承認条件として公差をチェックするようになる部門が出てくるなど、業務の中で公差検討を実施するという文化が根付きだしている。今後は、品質保証部門や製造部門などでの公差設計スキルの向上にも取り組んでいく予定だ。

 2010年2月には幾何公差についての講座もスタートし、第1回には若手からベテランまで約10人が参加。幾何公差の図示方法や読み方だけではなく、幾何公差に対応した測定方法を教えることで、幾何公差の設定が後工程へどう影響するかを考えるきっかけとすることを目指している。