模倣品業者の目的は,ほとんどの場合,金銭である。一方,被害を受けた部品メーカーにとっては,売上高の減少のみならず,模倣品の解析や販売ルートの調査に余計な手間とコストがかかってしまう(図8)。品質が良くないとの評判が立つことによるブランド・イメージの低下や,販売店との関係悪化を招く恐れもある。

自社製の通信機器や通信用LSIの模倣品に悩まされている米Cisco Systems, Inc., Brand Protection Group, DirectorのPhil Wright氏は,「我々は,模倣部品の問題は金銭的な視点では重要と考えていない。むしろ,顧客満足度が低下してしまう点を最も気にしている」と述べている。
模倣品の中には,諜報活動やテロを目的とするものも存在するという。「ある模倣部品は,いったんシステムに組み込まれると“トロイの木馬”のように特定の情報を集めたり,システムをダウンさせたりする。それらは軍を狙うだけではなく,時には銀行のシステムを狙うこともある」(NEDAのGray氏)。
今後,市場の急拡大が見込まれている電気自動車や医療機器,スマートグリッドに半導体や電子部品の模倣品が入り込み,ニセモノの太陽電池とつながる可能性も否定できない(p.41に関連記事)。そうしたシステムで万一事故が起きれば,「被害は甚大だ」(安川電機 技術部 技術管理担当部長の中村靖司氏)。
これまで日本の企業は正規の部品流通による取引が中心で,模倣部品に対しては比較的安全性が高いと考えられていた。しかし,「日本の機器メーカーが生産体制を海外に移せば,当然ながら模倣部品のリスクを背負うことになる」(模倣部品のサプライ・チェーンを調べている米Design Chain Associates, LLC, Senior Vice PresidentのTom Valliere氏)。
実際,日本のエレクトロニクス・メーカーは市場のグローバル化やコスト削減への強い要求などから,海外EMSの活用や開発体制の現地化を進めている。日本の機器メーカーだけが“例外”といえる時代は終焉を迎え,それに伴い,模倣部品へのしっかりとした対策が必要になる。
「正規販売店=安全」とは限らない
模倣部品に対する最も基本的な対策は,「信頼の置ける部品メーカーから直接買うか,そのメーカーが承認した正規の販売業者から仕入れること」(米Digi-Key Corp., PresidentのMark Larson氏)だろう。多くの部品メーカーがWebサイトに載せている模倣品注意の告知にも,そのような内容が書いてある。
しかし,必要な部品を正規の販売業者から購入できず,オープン市場から入手せざるを得ない状況は,常に発生している。また,正規の販売業者だからといって安心できないこともある。例えば,2010年3月に見つかった米Intel Corp.のマイクロプロセサ「Core i7-920」の模倣品は,その典型例だ。このため,さまざまな対策が進められている。
模倣品業者に狙われやすい生産中止品などを安全に確保する取り組みを進めているのが,米Rochester Electronics, LLCである(図9)。同社は大手半導体メーカーと協力し,生産中止になった製品を再生産することで長期にわたる供給を可能にしている。「我々は既に,大手半導体メーカー40社と契約を結んでいる。米国メーカーが最も多いが,欧州メーカーも加わっており,日本メーカーとも協業し始めている」(同社 co-presidentのChris Gerrish氏)。こうした企業から生産中止品を購入すれば,模倣品をつかまずに済む。
