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「あの会社,今までにないような生産革新活動をしているらしい」。そんな噂が立ち始めたのは,2001年前後のことだ。当初こそ同業者のみぞ知る隠れた存在だったが,やがて商社や銀行の間で話題に。数年前からは,生産革新活動をお家芸とする自動車メーカーからも注目されるようになり,ある大手自動車メーカーのトップに「ぜひウチでも導入したい」と言わしめた。

 そして,ついにその噂は政府の耳に入る。2007年5月には,経済産業省が同活動のみを対象にした「生産革新研究会」を設置。2008年3月,同研究会がまとめた報告書には「(公的機関が)積極的に普及と啓発を図っていくことが望まれる」と記されている。

 これほどまでに注目されている革新活動。その名は「ダイセル生産方式」(以下,ダイセル式)である。酢酸セルロースなどを製造するダイセル化学工業が,1996年から体系化してきたものだ。「自社を改革することだけを目指して始めた活動だが,噂が口コミで広がり,気付けば人から『ダイセル式』と呼ばれるようになっていた」(同社執行役員生産技術室長の小河義美氏)。同社の網干工場は,このダイセル式発祥の地である。同工場には今も見学希望者が絶えず,これまでに500以上の企業・団体から5000人以上が見学に訪れた。

 たった一つの工場でひっそりとスタートした活動が,政府にまで注目されるようになった理由。それは,ダイセル式が,一般的な革新手法に比べて早い段階で大きな成果を出せる点にある。網干工場では,活動を始めてわずか4年で,作業者の数を半分以下に下げつつ,生産性(一人当たりの付加価値額)を約2.5倍に上げることに成功した。

 こう聞けば,誰しも「従来の手法よりもダイセル式の方がはるかに優れているのではないか」と想像する。しかし,ダイセル式にも従来型にも,それぞれ長所と短所がある。どちらが優れているかを議論するのではなく,両者の違いを明確にすることをまず考えるべきだろう。

最初から険しい崖を登る

 両者の最大の相違点は,革新活動を長期的視点で見たとき,どの段階で最も難しい部分を突破するかだ(図1)。

タイトル
図1●ダイセル式と従来型の違い
革新活動を山登りに例えた。ダイセル式では,登山の行程の早い段階で問題点をつぶすので,初期は険しい崖(がけ)を登ることになる。しかし,残りの道のりは穏やかで活動を持続しやすい。一方,従来型の手法では,当初から目標を見据えているのは活動の主導者のみ。残りの人員は,平坦で緩やかな登りの道をひたすら歩み続けた後,難所を迎える。

 革新活動の最終的な狙いは,「ムダのないものづくり」。それを実現するには,全体最適を踏まえた体制づくりが不可欠なのは言うまでもない。全体最適の体制,つまり全社を巻き込んだ改革の風土が出来上がると,収益アップなどの成果が急激に見え始める。しかし,活動全体の中でこれが最も難易度の高い部分。山登りに例えるなら,険しい崖の部分に当たるのだ。ダイセル式と従来型では,それを実行するタイミングが全く違っている。

 従来型では,険しい崖を登るのは活動をだいぶ経験してからというのが一般的だ。最初は,一つの生産ラインの,一つの工程でカイゼン活動を実施。それがうまくいったら別の工程へ,別の生産ラインへと展開する。そうして生産現場における活動が定着したら,次に設計部門や事務部門など,「物を生産する」以外の機能を持つ職場にも手を伸ばしていく。

 このやり方の利点は,じわじわと活動を広げていくことで現場の理解が進み,足腰も鍛えられる点。現場の人は当初,「何のためにこんなことをするのか」とワケも分からず活動に参加する。しかし,分からないながらもカイゼンに取り組むうちに,自然と,自ら考え,あらゆる問題に対処できる「カイゼン力」を身に付けていく。これが会社の底力となり,後半に険しい崖を登るときにパワーを発揮するのだ。

 一方のダイセル式はどうか。実は,活動を始めて間もないうちに,この険しい崖に挑戦する。最も難しいところを最初のうちにつぶしておく,いわば革新活動のフロントローディングをするのである。

 ここで素朴な疑問がわく。「現場の足腰が鍛えられていないうちに険しい山に登るなんて,本当にできるのか」ということだ。それを独自の手法で可能にしたことこそがダイセル式の本質であり,自動車メーカーなどが大注目するゆえんなのである。

「見える化」のレベルがスゴイ