前工程を管理・運営することで削減できる最大のムダは「不良品ロス」である(図3)。例えば,ホワイトソースを造る工程が4つあったとする。従来は4番目の工程のみを自社で賄っていたとすると,そこで不良品を発見したときには既に,工程1~3までの材料・加工費が製品に上乗せされていることになる。前述の通り,食品は手直しが利かない。つまり,後工程で不良を発見すると,材料費+工程1~3の加工費をそっくりそのまま捨てることになってしまう。だから,前工程で見つける。
しかし,これを現場で実行するとなると容易ではない。例えば,あるメーカーから納入した小麦の袋が,輸送の段階で何らかの事情により破れていたとする。その場合,同社では袋ごと廃棄処分することにしているが,担当者はここで「もったいない」と思ってしまいがち。しかし,後工程で不良を出さないためには断行せねばならない。
こうした考えを現場に理解してもらうため,同社はある方針を貫いている。一般に,工場における生産で最も重視すべきはQ(品質),C(コスト),D(納期),E(環境対策),S(安心・安全)の5つだといわれる。同社の工場ではCやDよりも,QESの3つを最優先事項に据える。「『QESを達成するためならコストは度外視してもいい』と現場に指導している」(同社生産物流部取締役本部長の小島実氏)。
「バラつく」作業は工場で
バーチカル・マーチャンダイジングには,前工程で品質上のリスクを取り除くことのほかにもう1つ,重要な機能がある。それは,製品のバラつきをも前工程で低減させておくことだ。800店以上を展開するサイゼリヤにとって,料理の味や量をどの店でも均質に保つことは死活問題。これは,決して大げさな表現ではない。ある店舗で料理に満足した客が,別の店舗で満足できなければ,チェーンのどの店舗にも足を運ばなくなる可能性が高い。だから,バラつきは抑えなければならない。
飲食店でバラつきが発生する最大の要因は,「店舗で作業する人の能力の差」にある。調理が上手なコックが造ったハンバーグステーキと下手なコックが作ったハンバーグステーキでは…結果は言わずもがなである。では,どのようにしてこの差異をなくすのか。同社では,店舗の作業をできるだけ簡易なものとし,差異の出る部分はすべて加工工場の生産設備で対応することにしている。