朝のニュース番組を見ていた森本英子は、急にひどい頭痛がして顔をしかめた。(中略)数年前におきた脳梗塞で、英子の右手と右足は不自由になっている。(中略)連動機能を持った各種の健康測定機器でデータが自動的に記録されているので、人々は生活や健康の状態、労働の状況などを個人単位で常時、総合的に把握している。英子も脳血管を健やかに保つための多くの情報を得るとともに、本田本誌注1)は彼女の日常生活に対して適切なアドバイスを送ることができた。また英子の生活習慣病全般のリスクを低減するため、本田は「バイオマーカー」による検査結果に基づいて療養指導をしたり、ゲノム情報によって罹患†リスクを診断している。生活習慣病や高齢化に対応する家庭医学教育が浸透していることもあり、英子が今後予期せずに大きな病気にかかる可能性は低いといっていいだろう。
本誌 注1) 本田は、森本英子を診察した内科医という設定である。
†罹患=病気にかかること。
これは、文部科学省の科学技術政策研究所(NISTEP)が2010年にまとめた報告書「将来社会を支える科学技術の予測調査」に描かれた、2025年ごろの生活シーンの一節。デルファイ調査†を基に、科学技術の貢献によって起こり得る将来のシナリオを、国民生活の観点で示したものである。
†デルファイ調査=専門家に繰り返しアンケートを行うことで、予測の精度を上げていく調査法。
この生活シーンは一例にすぎないが、これから10年、医療/ヘルスケアの姿は大きく変わっていきそうだ。具体的には、エレクトロニクス技術などと融合していくことによって、「日常生活化」と「パーソナル化」が進む(図1)。