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 トラックなどのエンジン向け各種オイルパイプを開発・製造・販売する江崎工業(本社東京)は、ある「事件」を機にタイへの進出を決断した。今から約6年前のことだ。

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 その事件とは、日本のある自動車メーカーに提供していた部品が、タイからの輸入品とのコスト競争に負けたこと。実はこの直前、同じメーカーのタイ生産拠点に提供していた部品も、現地調達部品に切り替えられていた。タイへの輸出品が現地の部品に負けるなら、まだ理解できる。輸送費がコスト競争に負けた要因と考えられるからだ。しかし、タイからの輸入品に日本で負けたとなれば話は別だ。「相当の危機感を抱いた。これがタイ進出のきっかけになった」(江崎工業代表取締役社長の江崎敏治氏)。

 ちょうどこの時、同社のある大田区の産業振興協会が、現地の大手企業と組み、中小企業のタイ進出を支援する賃貸集合工場「オオタ・テクノ・パーク」を建設しているとの情報を入手した(p.53の別掲記事参照)。数カ月で進出を決意し、同施設が完成した直後に入居。現地の人材は、同施設に紹介会社をあっせんしてもらって確保した。こうして、EZAKI INDUSTRIAL(THAILAND)社は操業を始めた。

人が定着しない

 問題は、人材の育成にあった。日本のものづくりに対する考え方を理解してもらおうと、タイ人2人を日本の本社に研修に出したが、うち1人は早々に挫折した。研修に出さなかったスタッフも、数カ月で会社を去る。「ようやく一人前になりそうだ、というところで辞めていく。まるで、アルバイト感覚で働いているかのように見えた」(EZAKI INDUSTRIAL社Managing Directorの江崎隆広氏)。

 こちらの意図を正しく理解してもらえないことも多かった。例えば、同社のような部品メーカーが、取引先規定の通い箱を使って納品することはままある。日本の業界では、いわば「常識」とも言えるこの決まりごとを、現地のスタッフに何度言っても実行してもらえなかった。規定の箱ではなく、その隣にたまたまある箱などに完成品を入れてしまうのである。間違いをとがめれば、辞める原因にもなり得る。

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 ある時、たまりかねて、「どうして別の箱に入れてしまうのか」と聞くと、「この箱でなくてはならない理由が分からない」と言われた。同氏は、ここでハッとした。「この部品は黄色の箱に、これは青の箱に」と伝えていただけで、なぜそうするかの理由を説明していなかったことに気付いたのだ。

 「我々にとっての当たり前が、タイの人たちにとっては当たり前ではなかった。何事も、その理由を説明することの大切さを痛感した」(同氏)。以来、同社では、マニュアルに仕事の内容だけではなく理由も書き込むようにしている(見える化事例1)。

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