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【前回より続く】

 国プロが評価を進めたのは, Sn-Ag-Cu系の共晶組成「Sn-3.5Ag-0.75Cu」である。この組成を軸に,AgとCuの含有量をどう微調整するか。会議の主題はそこにあった。

 議論はまず,Cu含有量の検討から始まった。国プロの評価試験で,Cuの量が少ない方が信頼性に優れることは分かっていた。はんだ槽にCuが溶け込み,結晶ができてしまう現象を,Cuが少ないほど防ぎやすいためである。ただし,Cuが少ないほど融点は上昇してしまう。このトレードオフを考慮して「0.5Cu」に決めた。最もバランスが良いと判断したのだ。ここまでの議論は,比較的すんなりと進んだ。

 会議室の空気が変わったのは,検討がAgの含有量に移ってからである。国プロが評価していた「3.5Ag」はIowa州立大の特許に抵触する可能性が高かった。また,Agは高価な金属であり,含有量が少ない方がコスト面で有利となる。こうした理由で,含有量を3.5より少なくしたいという考えは,出席者の間で大方共通していた。だが,具体的な含有量の数字を提案する意見がなかなか出ない。

「イチキュッパ」作戦

東芝のパソコン事業部門で実装技術を担当していた,エスペック テストセンター 取締役 横浜R&Dセンター長の高橋邦明氏。(写真:皆木 優子)

「3Agではどうか。いや,むしろ2.8Agが良いのではないか」

 重苦しい空気を破ったのは,当時,東芝のパソコン事業部門で実装技術を担当していた高橋邦明(現・エスペック テストセンター 取締役 横浜R&Dセンター長)である。この主張の意図は,商品の値付けで「1980円(イチキュッパ)」などがよく使われるのと同じである。高橋は振り返る。「仮に米国で特許訴訟になった場合を考えた。陪審員は素人。3と2.8という数字は,与えるイメージが素人が見ても違う。3では3.5と大して変わらない。3を下回れば印象は変わる」。

ソニーで実装技術を担当していた,ソニーイーエムシーエス 幸田テック 技術グループ グループ統括の谷口芳邦氏。(写真:早川 俊昭)

 高橋は米国における訴訟の恐さを身に染みて知っていた。当時ちょうど,東芝のパソコン事業部門で,ノート・パソコン用のフロッピー・ディスク・コントローラ(FDC)に関する集団訴訟事件があったばかりだったからだ。和解による解決のために東芝は,関連費用として1100億円の特別損失を決算に計上すると1999年10月に発表している。高橋の主張は,こうした苦い経験に裏打ちされていた。

 さらに高橋は,国プロで進められた「3.5Ag」の評価とは別に,社内で自ら「3Ag」を評価していた。一般にAgの含有量を下げると接続信頼性が損なわれるが,高橋は「3Agや2.8Ag程度なら,3.5Agとさほど変わりない」と自らの検証で確信していた。このことも,彼の主張を後押しした。

あえて特許に飛び込む

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