DR実施時に知識情報を活用
一方,東芝テックがナレッジ情報の活用を始めたのは,同じような問題が形を変えて繰り返し発生している,という危機感だった。同社も,当初は既存の情報を設計者全員からアクセスしやすくするところから取り組みを開始。複写機(同社の製品)の部位別に組織された設計グループがそれぞれ独立に管理していた,問題発生や対策実施の記録や報告書を,横断的に検索できるツールを導入した。
しかし経験の浅い設計者にとっては,どれが重要な情報か判断できない。報告書などには問題の発生から原因究明,対策実施までの一部始終が書いてあるが,設計者が現在取り組んでいる問題に関係がある内容なのかどうか,全部読まなければ分からないためだ。ベテラン設計者であれば勘も働くが,若手設計者には無理だった。
このため,ナレッジマネジメントの導入を検討。設計者に伝えるべき,役に立つ情報のみを選別して整理することを考えた。しかしそれでも,再発防止までがせいぜいで,その情報をそしゃくして未然防止に使うのは難しいと思われた。ナマの事例情報は一般性がなく,その事例と少しでも異なった状況に応用することは困難なためだ。
そこで東芝テックは,SSM理論に注目した。報告書からエッセンスを取り出して,主な要素(どんな不具合か,どんな状況で発生したか,なぜ発生したか)がすぐ分かるようにしておけば,設計者が自分に関係ありそうな情報かどうかすぐ分かる。さらに,分野や設計部位が異なる問題でも,要素が共通する状況であれば,情報を応用できるようになるはずと考えたのである(図5)。
「このようなことを以前から指向していたが,システムを自分で開発するのも困難なため,適した市販ツールがないか探していたところだった」(東芝テックドキュメントシステム事業本部設計第1技術部の縫田昭氏)。そこで目に留まったのが,SSM理論とそれに基づくツールだったのである。
一部の情報から知識化を開始
東芝テックでは現在,一部の不具合情報から知識化を開始するとともに,設計者が参照できるシステムの運用の試行を始めた。最初に知識化の対象に選んだのは,比較的大きな問題でさまざまな切り口があるもの,そして関連資料が多く存在し,社内の設計者が覚えている問題という。「設計者からはまずまず好評なので,知識化作業を継続することにしている」(縫田氏)。