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 大枠の方針を決めるのにCAEを活用することは、CAEを活用する場面を増やすだけという単純なことではない。本質は、CAEの適用範囲を広げることである。

 ところが、大多数の設計者は設計業務に忙しく、社内でどのようなCAEが使えるのかといった最新動向についてそれほど詳しいわけではない。「知りたいと思っても、聞きに行く時間もないぐらい設計者は忙しい」(富士ゼロックス商品開発部プロセスイノベーション部の舘野有美氏)。前述の通り、一般的な設計者にとってCAEは、詳細設計段階で品質要件を満たしているかを検証するためのツールという側面が大きく、構想設計段階で設計根拠や生産根拠を得るような使い方は、これまであまり多くなかった。後者のように使う場合、「そもそもCAEで何ができるのか」といったことさえ、設計者が把握しているとは限らない。

 ここに、解析技術者が設計者を支援する意味がある。設計者が悩んでいるところに解析技術者が助言できれば、当初設計者が思ってもみなかったCAEの使い方に設計者が気付ける可能性が高まるのだ。

 とはいえ、多くの設計者にすれば、設計上の課題をCAEで解決したいと思っても「自分の課題に最も詳しい解析技術者が誰か、よく分からない」(同社商品開発部プロセスイノベーション部の河野裕久氏)。誰に相談すればよいのか分からないケースも多いので、CAEを活用したいと思っても、つい気後れしてしまいがちだ。

 そこで、そうした心理的なハードルを取り払うために、同社では設計者や解析技術者、生産技術者などの主要なメンバーが1つの部屋に集結する「大部屋方式」を採用した。設計者がCAEを積極的に使うには、担当者同士がコミュニケーションを取りやすい環境を用意する必要があると考え、大部屋方式の採用に踏み切った。

 この大部屋の中で、解析技術者の取りまとめ役でもある舘野氏や河野氏が“御用聞き”を行って、設計者が抱えている課題を集約し、それぞれの課題に最も適した解析技術者と設計者を次々に“マッチング”させていった。こうすることで、設計者がCAEを使いやすい環境をつくり出したのである。

 大部屋方式は、コミュニケーションを活性化させる手法としてはある意味で非常に原始的だが、効果は絶大だった。従来は、設計者の悩みに関してはFMEA(故障モードおよび影響解析)活動や「ミニ設計審査」などのタイミングで定期的に抽出していたが、大部屋方式にすることで、よりきめ細かく設計者の悩みを拾うことが可能になり、従来よりも多くの設計根拠や生産根拠をCAEによって得られるようになった。「大部屋方式は今後のスタンダードになりそうだと感じた」(河野氏)。

設計者の信頼を得るために

 設計者と解析技術者のコミュニケーションが成立するには、解析技術者側に相応のスキルが必要となる。設計者の悩みに対し、即座に、しかも適切に回答しなければならないからだ。

 そのために解析技術者に求められるスキルとして舘野氏と河野氏が挙げるのは、①設計者の言葉の意味をその場で理解できる、②問題にしている品質を左右する特性値をその場で認識できる、③その特性値について解析できる手段の有無をその場で判定できる、の3点である(図3)。このようなやりとりを繰り返していくことで、両者の間に信頼関係が生まれ、設計者がもっとCAEを活用してみようという気になるようだ。

図3●解析技術者に求められること
設計根拠や生産根拠を得るためのCAEを行う上で、解析技術者は設計者から設計の根幹にかかわる相談を 持ち掛けられることになる。そのため、解析の対象となっている品質課題や特性値に関する知識などにも精通 していることが望ましい。
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 CAEを通じて、解析技術者から設計者に対して設計上の提案を行うこともある。例えば、図2のようなCAEを設計者が行う場合に、どのような案を用意するかといったことに関しては、特に手順などは定めていない。基本的には、設計者の自主性や独自性を尊重するというスタンスだ。