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 (3)の無線技術の進化としては、小型・低消費電力化の進行やヘルスケア用途に特化した専用無線方式の登場などがある。

新たな商品企画も可能に

 例えば、村田製作所は2013年中に、BLEモジュールの大幅な小型・低消費電力化を図る考えだ。具体的には、大きさを1/3、消費電力を1/4にする(図1)。「ここまで小型・低消費電力になれば、これまでBLE搭載が難しかった体温計への実装も視野に入るなど、新たな商品企画が可能になる」(同社 コネクティビティ商品事業部 コネクティビティモジュール商品部 商品技術2課 係長の藤川勝彦氏)。小型化については、半導体メーカーによるチップ寸法の低減が急速に進んできたことに加え、村田製作所の実装技術を組み合わせることで実現する。低消費電力化については、チップのプロセス変更などで達成するという。

図1 無線モジュールの小型・低消費電力化が進む
村田製作所は2013年中に、BLEモジュールを2012年時点のものに対して1/3の大きさ、1/4の消費電力にする考え。
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BANの実証が進む

 ヘルスケア専用の無線方式としては、2012年2月に規格化されたIEEE802.15.6がある。「BAN(body area network)」と呼ばれ、人体周辺で構築する無線ネットワークに向けた無線通信規格である。伝送距離は最大2m程度と短いが、伝送の信頼性が高く、厳格なセキュリティーや緊急データの優先伝送などが基本仕様として設定されているのが特徴だ(表1)。さらに現在、同規格の派生系として、米国で「IEEE802.15.4j」、中国で「IEEE802.15.4n」の策定が進められるなど動きが活発だ。

表1 BANと主な短距離無線通信規格の比較(表:NICTやノルディック・セミコンダクターの資料を基に本誌が作成)
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 まだ規格化から間もない上、「従来の無線方式に対する具体的なメリットが見えてこない」(複数のヘルスケア機器メーカー)という声もあり、BANが実際に市場で使われるようになるのはこれからだ。ただし、活用に向けた検証は着々と進んでいる。例えば、九州大学は、BANを活用した遠隔医療や在宅医療の実証実験を2012年からバングラデシュで進めている(図2)。体重計や血圧計などの各種センサに外付けでBAN用の通信モジュールを搭載し、計測データをAndroid端末にワイヤレスで収集する。収集したデータは携帯電話網を利用してWeb上でやり取りする。

図2 バングラデシュで実証が進む
九州大学は、BANを活用した「ポータブル・ヘルスクリニック」の実証実験を2012年からバングラデシュで進めている。
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 日本ではさまざまな規制などによって大規模な実証実験が困難であり、「システムの改良やサービスの有効性検証が望めない」(九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター 准教授で国際医療連携室長の中島直樹氏)ため、バングラデシュで実証を進めている。「BANはヘルスケア向けに特化した国際標準の通信規格であり、日本のみならず世界で利用できるシステムを構築できる」(同氏)と踏む。

ワイヤレス医療機器の原点は、患者の電気安全性の確保にあり

 世界初のワイヤレス医療機器とされるのは、日本光電工業が1976年に発売したワイヤレス生体情報モニター「ICU-6000」である(図A-1)。ワイヤレス化を実現した発想の原点は、患者へのリーク電源を最小限にするという、電気安全性の確保にあった。

図A-1 1976年に実用化
世界初のワイヤレス式生体情報モニタの登場を伝える日本光電工業の社史。
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 1970年代前半、トランスを利用して電源部と患者の接続部を絶縁する、いわゆるフローティング方式を採用した心電計を、米国の医療機器メーカーが開発した。当時、日本光電工業で生体情報モニターの開発リーダーだった久保田博南氏は、「フローティングの上を行く電気安全性を実現するには、ワイヤレス化によって電源部と患者の接続部を完全に切り離すしかないと考えた」と振り返る。

 ICU-6000では、心電図、呼吸波形、体温、血圧2チャネルの計五つの生体情報データを、100Hz~数KHzの周波数帯に分けて変調し、FM変調波でデータを送信する方式を採用した。当初想定していた電気安全性の確保だけではなく、送信機が1台でも複数カ所で情報を受信できるなど、ワイヤレス化によるメリットが評価され、ヒット商品になったという。