国立成育医療研究センター(以下、成育医療研究センター)は、全国に6カ所設置されている国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)の1つとして、2002年3月に開設された。受精・妊娠に始まって、胎児期、新生児期、小児期、思春期を経て次世代を育成する成人期へと至るライフサイクルの健康問題を包括的にとらえる「成育医療」とその研究を推進している。

同センターは病院と研究所が一体となった施設で、安全性と有効性を検証しつつ高度先駆的医療の開発・提供を行っている。同時に小児救急医療、安全な出産を含む妊産婦医療、新生児医療など成育医療全般に関して、チーム医療や包括的医療に配慮したモデルを確立し、全国的に展開していく目的も持つ。
成育医療研究センターは、電子カルテ端末として約900台、ベッドサイド端末として約500台、医事部門の事務用端末として200台以上、その他、部門システムなどの端末を加えると2000台近いPCを運用している。490床規模の病院としては非常に多い。そのうちの1400~1500台のPCは、24時間稼動している。病院の省エネルギー化を進めるうえで、病院情報システム端末に省電力設定を適用することでどの程度の消費電力削減が可能か、実証実験の結果は大いに注目された。
電力事情の悪化を機に消費電力削減に向けた実証実験を実施

地球温暖化対策の鍵となる省エネ推進は、家庭やあらゆる業種に求められている。医療施設は24時間稼働や高度医療機器の利用など、エネルギー消費量が大きくなる要素が多いため、効率化が強く求められる。
東京都病院協会が2008年に都内の病院を対象に実施した省エネルギー対策に関するアンケート調査によると、回答のあった46病院の平均病床数は248床、平均延床面積約は1万7000平方メートルの施設で、1平方メートル当たりの年間消費エネルギー量(エネルギー原単位)は約2600MJ/m2とされる。延床面積が6万平方メートルを超える成育医療研究センターのような規模では、約4000MJ/m2以上になるとされ、大規模ショッピングセンターに匹敵するエネルギーコストがかかる。そのため、病院にとって省エネルギー化や環境対策は、重要な課題の1つといえる。
加えて、東京都環境確保条例などの法的規制への対応も急がれる。例えば、大規模事業者を対象にした温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度では、前年度の燃料、熱、電気の使用量が原油換算で1500キロリットル以上の事業所は、CO2削減義務が課されている。2000年を基準にして、2020年で約17%削減を達成しなければならない。成育医療研究センターも対象事業所に該当しており、すでに削減計画期間に入っている。
「資料をもとに東京都の条例について研究していましたが、情報システム部門として具体的な対応策は打ち出していませんでした。ところが東日本大震災・原発事故による電力事情の悪化で、病院情報システムにおいても具体的な節電対策を考える必要性に迫られました」。情報管理部 情報解析室長の山野辺裕二氏は、病院情報システムの省エネルギー化、温室効果ガス(CO2)排出抑制対策の必要性に触れながら、電子カルテ端末の消費電力削減に向けた実証実験の実施背景を説明する。
最大36%の消費電力削減を実証、アイドル時間も約49%削減
実証実験は、電子カルテや看護支援システムが24時間フル稼動している病棟8階西側のナースステーションで実施した。このナースステーションでは8台のPC端末を運用しているが、このうち5台にインテルvProテクノロジー搭載のPCを導入。クライアントPCの消費電力の可視化と電源制御機能を持つ、PC電源管理ツール「Tivoli Endpoint Manager for Power Management」を利用した。
同PC電源管理ツールは、あらかじめ設定した電源管理ポリシーをクライアントPCに適用することで、消費電力の節約やエネルギーコスト削減を実現する。実験では省電力ポリシーを適用した端末3台と、非適用2台の電源コンセント部分に電流計を設置し、1分ごとのデータを測定用PCに収集した。そのデータで算出した平均消費電力をベースに、CO2排出量、アクティブ時間、アイドル時間、スタンバイ時間を比較した。