静岡県磐田市の「すずかけヘルスケアホスピタル」は、療養型病院から回復期リハビリテーション病院への業態転換を機に、電子カルテシステムの導入をはじめとする情報共有環境を整備した。回復期医療で特に重要視されるチーム医療を支えるために刷新された院内情報システムは、看護師や各種療法士など多職種間協働を促進し、高品質で効率的な医療サービスの提供に寄与することが期待されている。
「すずかけヘルスケアホスピタル」が属する医療法人 弘遠会(本部:静岡県浜松市)は、"地域に根差したやさしい病院"を理念とし、地域の高齢者が住み慣れた街で安心して老後を送れるよう、医療・看護・介護サービスを提供している。老人保健施設「すずかけの街」を併設し、110床の医療療養病棟を擁する「すずかけ病院」をはじめ、医療・介護療養、デイケアサービスを提供する「天竜すずかけ病院」のほか、訪問看護ステーション、地域包括支援センターなどを運営する。すずかけヘルスケアホスピタルは、浜松市外にある唯一の施設で、隣接する磐田市にある。
療養型病院から回復期病院に転換し情報共有環境を整備

すずかけヘルスケアホスピタルは、2003年に「磐田すずかけ病院」として開設された。当初からリハビリテーションに注力してきたものの、医療・介護療養型病院として運営されてきた。だが、現病院長の久野智彦氏が2009年7月に就任し、2009年9月に「すずかけヘルスケアホスピタル」と名称変更。回復期病院を目指して新たなスタートを切った。院長就任以来、改築・改装を進めると同時にMRIやCTなどの医療機器を導入して、回復期リハビリテーション病院としての機能充実を急ピッチで進めた。
「人口17万人の磐田市を含む中東遠医療圏には、当時、回復期病院がほとんどなく、地域医療に問題を抱えていました。病院長として赴任するに当たって、回復期リハビリを担う病院を作るというのが条件の1つでした。地域のニーズを受け、患者さんの在宅復帰・社会復帰を確かな形にすること、それが業態転換の理由です。リハビリ病院としての認知度が上がるにつれ、患者さんは高齢者だけに留まらず、20~30歳代も増えており、経営面でも良好になりつつあります」(久野氏)。

久野氏は、病院長就任と同時に施設整備に着手。2009年11月にリハビリテーションセンターを、翌年1月に54床の回復期リハビリテーション病棟を開設した。今年4月末には介護療養病棟すべてを回復期病棟に転換し、106床に増床した。現在リハビリ専門医、看護師など約40人に加え、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など39人、総勢約110人のリハビリテーションスタッフを擁している。
中東遠医療圏では同時期に、市立御前崎病院、公立森町病院、菊川市立病院が回復期病棟を開設した。すずかけヘルスケアホスピタルは、それら公立病院と並んで、患者の9割弱を急性期医療機関である磐田市立総合病院から受け入れている。在宅復帰率は85%以上を誇り、地域医療において重要な役割を果たしている。
医療の質や安全性の向上、高度化・複雑化に伴う業務の増大に対応するため、スタッフがそれぞれの専門性を考慮して業務を分担・連携するチーム医療を推進している。特に回復期医療では、医師や看護師、各種療法士、ソーシャルワーカー、管理栄養士など多くの専門職の積極的な活用、多職種間協働を図ることなどにより医療の質を高め、効率的な医療サービスを提供する必要がある。そこでは、医療スタッフ間のコミュニケーション、情報の共有化、チームマネジメントの視点が必要とされ、特に高品質・効率的な医療サービスの提供のためには、情報の共有と業務の標準化がポイントになると言われている。

「看護師はバイタル情報や生活機能情報を持ち、リハビリ部門は歩行能力や言語能力などの情報を持っていますが、それらの情報が分断されてしまうと正しく患者を評価できない危険性があります。例えば、歩行能力について、看護師が“病棟での状況を基に十分”と評価を下しても、療法士は“生活レベルでは不十分”と異なる評価をする場合があります。そこを調整していくのが医師の役割であり、そのベースとなるのが情報を共有化し、共通認識を醸成することです」(久野氏)。回復期リハビリを強化するためには、電子カルテを中心とした情報共有環境が重要、と久野氏は力説する。
久野氏自身は、名古屋大学脳神経外科学教室で脳卒中救急医療ネットワークの構築に携わったこともあり、急性期・回復期を問わずITによる情報共有の重要さを認識していた。回復期病院に転換するに当たり、外来・病棟・リハビリ部門の連携を円滑にするために、電子カルテを中心にした情報共有化を推進するシステム整備が急務と考えていた。
現場のニーズに多彩なアプローチで対応できる点を評価
すずかけヘルスケアホスピタルは、2003年の開設時にワイズマンのオーダリングシステム、病棟看護支援システムを、翌年にはリハビリ支援システムを導入・運用してきた。久野氏が病院長に就任し、外来診療の本格始動、回復期リハビリテーションの強化に当たり、電子カルテ導入を見すえてシステム全体の見直しに着手した。病院長就任から4カ月目頃には、院内の改装・改築、医療機器の導入に合わせてシステムも再構築する必要が出てきた。重視したのは、最もスムーズに稼動にこぎ着けられることだった。