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 川崎市北部地域の医療ニーズに応えるため、2006年2月に市内3番目の市立病院として開院した川崎市立多摩病院は、公設民営の指定管理者制度により学校法人の聖マリアンナ医科大学が運営する公立病院として注目されている。開院当初から電子カルテシステムや部門システムが連携した総合医療情報システムを構築、情報の一元化を実現し、医療の質、患者サービスの向上、医療現場の安全性確立や業務の効率化をめざした充実した医療のIT化を成し遂げている。


学校法人が指定管理者となった全国初のケースとして注目

 病床数376床を有する川崎市立多摩病院は、川崎病院、井田病院に次ぐ川崎市の3番目の市立病院として川崎市北部医療圏(高津区、宮前区、麻生区、多摩区)の医療供給体制を担う目的で開院した。その背景には、川崎北部医療圏は都市部にもかかわらず、神奈川県が定める二次保健医療圏の基準病床数に対して約400床の不足が生じていたという課題があったためだ。将来的にも人口増加が予測されている地域であり、特に救急医療の確保について市民からの要望も高かったため、「川崎新時代2010プラン」の都市再整備計画の一環として設立が決定された。

 多摩病院の大きな特徴は、運営面で指定管理者制度を導入し、川崎市内で救命救急センターなどの運営実績のある聖マリアンナ医科大学を指定管理者として、民間活力を活かした効率的な病院運営をめざした点だ。指定管理者制度による公立病院は全国に現在43施設あるが、学校法人が指定管理者に指定されたのは全国で初めてのケースとして注目されている。

 病院の収益は、一度、市の病院事業会計に組み入れられ、交付金(診療報酬分および政策的医療分)を聖マリアンナ医科大が受け取ることになる。また、医療機器、医療情報システムなど施設・設備に対する減価償却相当額を毎年、指定管理者負担金として市に対して年額約6.5億円を支払う仕組みである。

ゼロからのスタートには総合情報システムの構築が必須

 こうした経緯で新設された同病院は、診療業務支援や経営支援をのために情報の一元化をめざした総合医療情報システムの構築をコンセプトに、当初からペーパーレス、フィルムレスを実現した。

 医療情報システムに関しては、診療の質の向上はもちろん、患者サービスの向上、病院経営改善に寄与する、院内連携を重視したものといった基本要件に基づき、(1)電子カルテシステムの導入、(2)画像情報のデジタル化、(3)物品管理システムとの機能連携、(4)経営管理システムとの機能連携、(5)院外とのネットワーク構築、(6)院内OA化(イントラネット)の推進という6項目を基本方針とした。

副院長(医療情報部長 経営企画部長)の山口敏雄氏
副院長(医療情報部長 経営企画部長)の山口敏雄氏

 「ゼロからスタートする病院である以上、こうした総合医療情報システムを最初から構築しないと、全くメリットはない。大規模病院におけるこれまでの多くのケースを見てきて、医療情報をアナログからデジタルに移行する際の大変さは、技術的な問題はもとより、スタッフの移行に伴う業務改革やモチベーションの形成などの壁が多い」。医療情報部長兼経営企画部長の山口敏雄副院長は、総合医療情報システム構築の背景をこう強調する。

 構築されたシステムは、電子カルテおよびオーダリングシステム、看護支援機能を中心に、薬剤部、栄養部、臨床検査部、画像診断部、医事課をはじめとする各部門システムがすべて連携。特に経営管理システムや物流センターの物品管理システムとも連携し、情報の一元化を図っている点が大きな特徴といえる。「すべての物品には、バーコードが付与されており、バーコードのチェックにより物品の使用管理を効率化している。また、注射ボトルに付与されたバーコードと患者様のリストバンドの患者IDをPDAでチェックすることで、安全性の徹底が図られている。」(山口氏)という。

 導入された電子カルテシステムは、NECの「MegaOakシリーズ」。ハードウェア関連では、サーバ46台をはじめ、デスクトップPC255台、ノートPC160台、PDA端末82台、画像参照用端末99台、その他自動入金機や自動再来受付機などの端末で構成されている。

 システム運営は、医療情報部の山口部長と同主任の伊藤誠氏のほか、診療情報管理師2名が中心に運営している。同病院が24時間の救急医療センターであることから、NEC関連会社のオペレータが常駐昼間は3人、夜間は1人ないし2人が常駐している。「診療、事務業務すべてが総合医療情報システムに依存しており、システム停止は絶対に避けなければならない。そのため24時間サポート契約で、保守・運用にコストをかけている」(山口氏)という。