静岡県の中核医療施設である静岡県立総合病院は、加速度的に増加する医用画像データに対応するため、医用画像管理システムを刷新し、新たな共有ストレージ基盤を構築した。新システムは、共有ストレージを中核として、医療情報インフラ全体の最適化を目指したもので、今後、電子カルテなどの医療情報全体を統合するシステム基盤を担っていくことになる。
医用画像の完全電子化に向けPACSを刷新

静岡県立総合病院(以下、県立総合病院)は、県内における中核的医療機関として、癌治療と心疾患・脳血管疾患などの循環器系治療に重点を置き、高度専門医療を提供している。また、地域医療支援病院(2007年7月承認)として、地域の診療所などと連携して地域医療の向上に務めている。その一環として、2005年7月には静岡PETイメージングセンターを、2008年8月には循環器病センターを開設した。
県の基幹災害医療センターや2次被曝医療機関などの役割、および医療専門分野における教育・研究施設としての役割も担っている。病床数720床、職員834人を擁し、1日平均の外来患者数は約1600人、1日平均入院患者数約580人に医療サービスを提供している。2009年4月1日には、精神科医療を主とする県立こころの医療センター、小児・周産期医療を提供する県立こども病院とともに地方独立行政法人化した。病院の自律性と機動性を高めることで、高レベルの医療をより効率的に提供していく体制に移行した。
これまで県立総合病院は、2004年度にオーダリングシステム(NEC製)、医用画像管理システム(PACS)を稼動、2006年7月には電子カルテシステム(ソフトウェア・サービス製)の稼動に漕ぎ着け、医療情報の電子化を一気に加速してきた。今回のPACS刷新は、旧システムのリース終了に伴うもので、将来の医療情報システム基盤の最適化を見据えたアーキテクチャに基づく全面的な再構築である。
激増する画像データに抜本対策迫られる
2004年に運用を開始したPACSのデータ保存システムは、構築当初、最大記憶容量5TB(テラバイト:1テラバイト=1024ギガバイト)で設計され、サーバーのハードディスクと、長期保存(アーカイブ)用としてDVDチェンジャーを利用していた。当時の放射線画像データ量は日計で1.6GB(ギガバイト)、年間の累計必要量は1TB程度だった。
ところが、2005年に東芝メディカルの64列マルチスライスCTが、2006年に横河GEの64列ボリュームCTなどが導入されたことで、データ量は大幅に増加し、2006年度には年間7.2TB、2007年度には同11TBへと増えた。
稼動3年目にして当初設計の最大容量を上回ってしまい、ネットワーク接続型の記憶装置を徐々に増設しながらしのいできた。しかし、2008年に循環器センターが新たに開設され、モダリティの更新・増設によって、データ量がさらに急増することが予想されたため、抜本的な対策が急務となった。

「64列のマルチスライスCTや3テスラMRIなど、新しいモダリティの導入に伴って、データ量は従来の3倍、4倍と加速度的に増加しています。また、モニター診断を行うようになると、高速性を維持しながら、より多くの情報量で診断精度を上げたいという要求が高まり、必然的に1検査当たりのデータ量も多量になる傾向があります。そのため、新たな放射線画像管理システム基盤が望まれていました」。放射線部副技師長の佐藤信之氏は、システム更改の背景をこう述べる。
新システムの設計に当たり、医療情報室主査(3月取材当時)の岩井聖氏は当初、最大記憶容量20数TBを想定していたが、循環器センターの開設を含めて、2012年度までリース期間の増加量を勘案すると、最大で120TBが必要だと判断したという。「県の財政状況を考えると、いきなり120テラバイトのシステム投資は困難です。そこで、必要に応じて、年度ごとにハードディスクを増設することで拡張できるストレージソリューションを導入することにしました」(岩井氏)と、ストレージエリアネットワーク(SAN)をインフラの基本仕様とした理由を述べる。
インフラの全体最適を目指してアプリケーションと分離調達
今回のシステム更改におけるインフラ構築の大きな特徴は、県立総合病院全体、さらには独法化された静岡県立病院機構のインフラ最適化を目指した点だ。

企業のITシステムと同様、病院内で部門システムや業務システムごとにサーバーやハードディスクを設置すると、ある部門ではCPU能力やディスクサイズが限界に達し、別の部門では十分な余力があるといった、ハードウエアリソースの非効率化が起きる。
SANによって全システムのストレージを共通化・統合化することで、ストレージを効率的に使用することが可能になる。「マルチベンダーに対応した『オープン』なストレージを共有のリソースとして利用し、各システムの利用状況に応じてストレージをコントロールすれば、インフラ全体の最適化につながります。必要に応じてディスクを拡張できれば、初期投資を抑えられる上に、ディスク自体は年々低価格化しているので、追加投資の際のコストダウンも期待できます」(岩井氏)と、全体最適を目指したシステム基盤のコンセプトを語る。
こうしたコンセプトに基づいたインフラの一般競争入札で採用されたストレージソリューションが、EMCジャパンのミッドレンジストレージ「EMC CLARiX CX3-40」と、ストレージ管理ソフト「EMC ControlCenter」(ECC)の構成だ。ストレージの最大容量は120TBとし、2008年8月の導入時に37TBでスタートした。翌2009年度に11TB増設、2010年度以降24TBずつ拡張していく計画だ。