長野県松本市の藤森病院は、創立120周年を迎えた2009年に新病院を竣工し、新たなスタートを切った。新築を機に、電子カルテをはじめとした病院情報システムを整備し、一気にIT化に踏み切った。電子カルテシステムや部門システムが、医師、部門スタッフ間の情報共有と円滑なコミュニケーションを促進し、充実したチーム医療を実現しつつある。

藤森病院は、松本城近くの旧市街に残る唯一の病院で、120年以上の歴史を持つ。現在は内科系診療も行うが、外科系を中心とした診療で実績を挙げている。伝統的に消化器系手術が多く、最近では血管系と乳腺系手術が加わり、年間手術件数は約500例。60床規模の病院としては多くの手術を実施しているといえる。
歴史が長いことや旧市街に立地していることもあって古くからの患者が多く、地域に根ざした医療を提供してきた。1973年に建設した建物が老朽化したため、創立120周年に当たる2009年に新病院を完成させ、新たなスタートを切った。
新病院の「狭さ」をメリットに、IT化も重要なファクター
「本院は城下町の旧市街に立地しているため、敷地は決して広くありません。新病院建設に当たっては、その狭さを逆手にとり、利便性向上を目指しました。高齢の患者さんが多く、足腰が弱い方も多い。だからこそ、狭さをむしろ味方にできると考えました。移動距離を短くできるよう患者導線を適正化する一方、職員のムダな動きを減らすため、誰もが診療情報にアクセスできるようにすることが重要と考えました。そのためには、IT化は必須要件でした」――院長の西牧敬二氏は、新病院建設を機に医療情報システム導入に踏み切った動機をこう述べる。

加えて、「『地域のかかりつけ病院』として質の高い医療を提供し、『やさしさ・心遣い』のある病院を目指すという理念の実践には、すべての医療スタッフが患者さん一人ひとりについての診療方針を理解し、チーム医療に邁進することが重要。それにはITによる医師、部門スタッフ間の情報共有が不可欠」と言う。
この新病院建設とIT化プロジェクトで中心的な役割を担ったのが、事務長の西村正徳氏だ。同氏は病院情報システム整備を手がけてきた経験を買われ、2007年に市内の中規模病院から転職した。
「IT化の要求を満たそうとすると、コストは限りなくかかります。病院建設に莫大な投資が必要な状況で、小規模病院が情報システムを整備するのは、非常に高いハードルです。とはいえ、新病院建設のタイミングはIT導入のチャンスです。自分が蓄積してきたノウハウを生かして、いかにコストパフォーマンスを高めるか。それが最大の課題でした」(西村氏)と、プロジェクト立ち上げ時を振り返る。
病院情報システム導入には、紙カルテやレントゲンフィルムをなくすことで、保管管理スペースを節約し、搬送のための職員の動きを極力減らす、という理由もあった。同時に、職員の仕事の仕方を大きく変え、業務変革を起こすのも狙いだったと西村氏は指摘する。
低コストと柔軟性を評価してシステムを選定

導入システムの検討にあたっては、費用対効果や柔軟性に重きを置いた。「当院のような規模でも、システムの機能自体は中規模以上の病院と同等である必要がありますが、大手ベンダーの提案するシステムは費用対効果の面でなかなか見合いません。小・中規模病院向けパッケージは安価ですが、多くの機能がオプションになっていて、追加投資が必要です」(西牧氏)。
そこで中堅ベンダー数社に絞って検討の上、ワイズマンのシステムを選定した。西村氏は、「同社の医療情報システムは、シンプルな構成ながら必要な機能を有し、コストパフォーマンスが高いこと、システム専任担当者を置かなくても十分に運用できること、今後のさまざまな要求に応える“伸びしろ”を持ったシステムだと感じたこと、この3つです」(西村氏)と機種選定の理由を述べる。
導入したシステムは、電子カルテシステムER、病棟看護支援システムER、リハビリ管理システム、臨床検査システム、ER医療事務管理システム(以上ワイズマン)、PACS(富士フイルム)、健診システム(テクノア)。無線LANを設置し、院内全域でアクセスできるようにした。病棟の看護業務ではノートPCをこの無線LAN環境で利用している。また、健診システムと電子カルテシステムを連携させ、電子カルテから健診情報を参照できるようにした。
システムの導入時には、各部門の代表者を集めた委員会を立ち上げ、それぞれの業務プロセスを洗い出して、ベンダー担当者と仕様を詰めていった。例えば、受け付け時に受診科を振り分けるか、それとも受け付け後に看護師が振り分けるのか、といったオペレーション仕様は、基本的には従来のプロセスを踏襲し、必要に応じてカスタマイズを行った。西村氏は「こうしたカスタマイズが比較的柔軟にできるところに、“伸びしろ”があると感じました」と語る。