秋山氏は「看護スタッフは平均年齢も比較的高く、マウスを握ったことのない人も多かったので、コンピュータ操作への対応ができるかが最大の課題でした。コンピュータを使った業務に適応できないことが原因で離職するスタッフを出さないことが、私の目標でした」と当時を振り返る。

同院では、オーダリングシステムの導入作業を控えた約半年前に、院内LANの構築とグループウェア導入という病院全体のネットワーク環境を構築した。ネットワーク化による効率化はもちろんだが、全職員をコンピュータ操作に慣れさせるという目的もあった。
そのトレーニングでは、オーダリングシステム稼動後には操作しないスタッフも含めて、基本的に全員参加とした。オーダリングシステムの操作に関与しないことを理由にトレーニングへの参加機会を奪うことは、職種による格差を認識させることになり、スタッフのモチベーション低下になりかねないという配慮からだった。
こうしたトレーニングや全体リハーサルに十分な時間を費やしてプロジェクトを進行したことに加え、当初からの計画であった段階的な運用によって現場の課題を逐一解決していったことが、成功の大きな要因だったと永井氏は指摘する。同院は、急性期治療病棟、精神病棟、認知症治療病棟など11の病棟に分かれている。この中から3つの病棟を先行病棟に選定し、第1次稼動として入退院・食事・検査・医事の各オーダーを稼動させた。第2次稼動では処方・注射・処置オーダーを稼動、第3次稼動として全病棟で入院系オーダーのすべてを稼動させた。そして、最後の第4次稼動でデイケアオーダーを含めた外来系オーダーを本稼動させて、病院全体の運用へと移行した。
秋山氏は「システムによって業務が大きく変わるため、現場スタッフの不安をどう払拭するかが問題でした。先行病棟での稼動で自信を持った看護スタッフが後から稼動する病棟のフォローに回ってアドバイスや手助けをする体制ができたことで、不安を軽減し、安心してシステム化した業務への移行を成し遂げることができました」と、段階稼動によってスタッフの自然発生的な協力体制がスムーズな運用に奏功したと語る。