19世紀最後の年、1900(明治33)年に、官営八幡製鐵所の付属病院として設立されたという日本有数の歴史を誇る新日鐵八幡記念病院は、「製鉄病院」の愛称で地元社会にしっかり根付いている。その新日鐵八幡記念病院が、北九州市内の診療所から八幡病院に紹介された患者の電子カルテを紹介元から閲覧できるシステム「SMILE:Shin-nittetsu Medical Information Lane of Electrical System」の運用をこの10月に正式スタートした。

新日鐵八幡記念病院は10月1日、電子カルテ地域連携システム「SMILE:Shin-nittetsu Medical Information Lane of Electrical System」を正式に開始した。IT技術を活用して、地域の診療所などのかかりつけ医との連携を進めようとする試みである。加盟した地域の診療所は、同院に紹介した患者の電子カルテに記載された情報を、ネットを通じて閲覧できる。今年の2月25日に試行的に稼働を開始し、このほど、本格的スタートにこぎ着けた。
ハードも含めてこのシステムに投下した開発費は5000万円で、サーバーの運用管理費は年間700万円となっているが、診療所の利用料は現在のところ無料で、八幡記念病院がすべてのコストを負担している。2010年11月の段階で、診療所9施設の患者74人を登録している。「当院のSMILEがこの地域では初の試みです」と同病院の情報管理・システム部長である河野俊氏は胸を張る。
電子カルテの内容を診療所のPCで閲覧可能

地域医療推進を担当する副院長の東秀史氏は、SMILE開始の目的を、「医療現場から見れば、一番の目的は患者情報の共有化。当院を受診する患者の90%近くが地元の診療所からの紹介です。ある程度の期間本院で治療を受け、その後は別の施設や紹介元の診療所でリハビリや診療を受ける、というケースが多い。SMILEがあれば、診療所に居ながらにして当院の電子カルテ情報を見られます。いろいろな診療科を受診している患者さんの場合は、特に利便性が高くなります。患者さんにとっても、普段お世話になっている診療所の医師が詳しい経過を知っている方が、より安心できるのではないかと思います」と説明する。
SMILEを利用したい診療所は、まず利用規程に同意する旨の利用申込書を八幡病院に提出する。その上で、診療所の主治医が患者に対して参加を呼びかけて、同意書に記入してもらう。それを新日鐵八幡記念病院に提出すると、その患者の電子カルテを閲覧できるようになる。プライバシーを尊重して、公開する診療科目を患者が選べるようにしているほか、いつでも公開を中止できるように、撤回届けを患者に同意書の記入時に渡している。

システム面での特徴は、データセンターを利用していること。地元ベンダーの西日本エムシーと契約している。河野氏は「厚生労働省には、以前から相談していました。同省の担当者からは、データセンター側の機器を利用し、サービス提供を受けるホスティングにすると問題があるが、自社の機器の運用をデータセンターに委ねるハウジングであれば問題ない、という趣旨の回答をもらいました」と説明する。
システムは、医療情報を扱うため非常に強くセキュリティを意識した構成になっている。八幡記念病院内には、診療・検査予約、カルテ情報、画像診断レポート、画像データのサーバーがある。ファイアウォールの外側には、主にテキストデータであるカルテ情報を扱う地域連携用サーバーと、画像を扱う地域連携用画像サーバーを置く。