茨城県日立市の整形外科専門病院、医療法人ここの実会 嶋崎病院は、新病院の新築・移転を機に電子カルテシステム導入に踏み切り、診療現場のIT化を成し遂げた。紙文書によるオーダー、診療情報の電子化により部門間の情報の伝達性や共有が密になり、部門スタッフの業務の効率化と業務品質の向上を実現させた。また、1人の患者を複数のドクターの目で診るという方針を電子カルテの活用により、的確で手厚い診療の強化につなげることができた。
嶋崎病院は1946年の開院以来、一貫して整形外科専門病院として診療にあたってきた。現院長である嶋崎雅直氏は、関節鏡視下手術を「渡辺式21号」という方式で実用化した故渡辺正毅氏(国際関節鏡学会、日本関節鏡学会初代会長)に直接師事。1978年頃から茨城県内で初めて関節鏡視下手術を取り入れ、現在は年間100症例を超える手術を実施している。このほか、人工関節置換術、靱帯再建術など年間で700症例を超える整形外科手術の実績を誇る。
また、リハビリテーション施設を地域の中核施設と位置付けて地域連携に注力する一方、股関節診、膝関節診、スポーツ診、形成外科診の専門外来を実施し、常勤専門医6人、非常勤専門医7人を抱える。
若いドクターの要望に応え、新病院開設を機に電子カルテシステムを導入

同病院は、日立市の市街地で64年にわたって診療を行ってきた。しかし老朽化に加えて、市街地であるために施設拡張ができずにハード・ソフトの両面で診療規模の限界に達していた。そこで、2010年2月に同市に移転し、新病院を開設して新たなスタートを切った。その移転新築を機に、病院のIT化にも着手。移転1年前にPACSを導入してフィルムレス、データストック化を進め、新病院開設とともに電子カルテシステムの導入に踏み切った。
「1日の外来数が非常に多いため、私自身は、電子カルテの操作の負荷により診察時間が長くなってしまい、従来の患者数を診られないのではないかという懸念を抱いていました。また、導入した病院の話を聞くと、医師1人の診療所や大規模病院はともかく、われわれの規模では導入メリットがあまりないという声が多かったのです。一方では、診療現場のIT化は避けて通れない状況だし、若い医師たちは新病院では電子カルテを使いたいという要望を強く抱いていました。両方の要素を熟慮した結果、導入を決断しました」。理事長兼院長の嶋崎雅直氏は、電子カルテシステムを中心としたIT化の経緯をこう述べる。
その若いドクターたちの中心となってシステム導入を主導したのが、院長の子息で嶋崎病院の次世代を担う嶋崎直哉氏(医長)だ。帝京大学医学部附属病院の整形外科医局長を経て、2008年4月に嶋崎病院に着任した。
「新病院を開設するのに、今さら紙カルテでの運用はあり得ません。確かに院長が指摘するように、操作の不慣れによる診察時間が長くなる可能性はありました。しかし、診療データの管理性や診療スタッフ全員が院内どこでもカルテにアクセスできる情報共有のメリットを考えれば、電子カルテシステム導入は必然的な流れでした」(嶋崎医長)。
病院の要望に対して、適切な提案による対応の柔軟性を評価
嶋崎病院は、電子カルテシステムの選定に長い時間をかけている。非常にとても慎重に検討を行ったようで、「当初は7社ほどのベンダーに声をかけました。各社に来院してもらい、説明・デモンストレーションを行ってもらいました。中には3、4回のデモをお願いしたベンダーもあります」(嶋崎医長)。
その結果、導入されたのが、ワイズマンの電子カルテシステムERを中心としたソリューションだった。「必要な機能を備えたシンプルなつくりで、操作が簡便であること」(同氏)が選択の理由だが、同病院が従来から実施している独特の外来診療プロセスをシステムで実現できることも要件の1つにあった。
同病院の外来診療では、特別診を除いて基本的に予約制を導入していない。「1人の患者さんに対して、複数の異なるドクターの目で診察することで、所見の取りこぼしをなくすことをポリシーとしている」(嶋崎医長)を具現化するためだ。これを診察プロセスに組み込むために、人手による外来患者の振分け作業を実施してきた。

紙カルテ運用のときは、患者が再来受付をすると、カルテは医事課から各診察室の診療を統制する「スターナース」と呼ばれる看護師に渡される。この「スターナース」がカルテ内容をチェックし、複数ドクターの診察を基本にしながら、かつ外来医師の専門性を考慮して、6つの診察室に再来患者(カルテ)を振り分けるのである。予約患者や予約外患者の自動振り分けと異なる、看護師の人為的作業を取り込んだ同病院のプロセスをシステムで実現するためには、電子カルテシステムの受付(外来患者一覧)機能をカスタマイズする必要がある。
「当院の外来診療の方法は本来、電子カルテシステムにそぐわない診療形態です。しかしこれは、システム化した後でも継承したかった。ベンダー各社はみなカスタマイズ可能と言うのですが、予想以上にコストがかかるうえに、複雑な仕組みになりそうでした。その中で、最も容易に対応できそうだったのが、ワイズマンの電子カルテシステムERでした」(嶋崎医長)。
電子カルテシステムERを採用した理由は、シンプルな機能構成であること、操作性の容易さ、過去カルテの閲覧性の高さといった点に優れていた点を指摘する。それに加え、そうした病院側の要望を実現する際に、単に時間とコストをかけたカスタマイズに頼ることなく、要望により近い方法で対応する適切な提案があったからだという。